37.つかの間報告
話す機会は割とすぐに来た。口さみしくなって何か買いに行こうと廊下を歩いていたところ、お風呂上がりの月緋さんと出くわした。カチューシャみたいなのをしてオールバックにしている。ホテルに備え付けられているパジャマではなく、ジャージを着ている。かく言う私も、去年のクラスTシャツをパジャマにしていた。「ばったりですね」と今度はこっちから声をかける。
「泉璃なにしてんの?葉賀さんは?」
「もう話してきましたよ。私はお菓子でも買おうと思って」
財布を見せると、月緋さんは「一人?」と訊いてくるので当たり前にうなずく。そしてなぜかついてくる流れに。
「一人で行けますよ」
「泉璃はあんま一人で行動しちゃだめなんよ」
ホテルの中だし安全、ではない。犯人が身内である可能性が高いからこそ、こういう場で油断できない。月緋さんは荷物を持ったまま売店までついてきた。用がない人を連れまわすのは気が引けるので、適当にスナック菓子を手に取る。レジに並ぶと、月緋さんはちゃっかりアイスを買っていた。なんだ、と思いつつ私も会計を済ませる。少し離れたところにソファーがあったのでそこで休憩することにした。ついでに、葉賀さんに能力について話したことも伝える。
「結局言ったんだ。まあ言ったところで何も変わんないけどさ、信じてくれるのってレアじゃんね」
「そうですね」
一応、月緋さんについて深堀りしてないことをことわっておくと、「別に気にしてないよ」とアイスをかじった。
「でも、葉賀さんに言うことはないって言ってたじゃないですか」
「葉賀さんに、っていうか。誰も信じないと思ってるから言う選択肢がなかっただけ。泉璃だから信じてもらえたのかもね」
言う人というより態度だと思うけどな。言うほどでもないから黙っておく。
「そう言えば、あれ何なんですか。ノックスの十戒。言ってみたら月緋さんの入れ知恵ってばれたし呆れられましたよ」
私が思い出し文句を言うと月緋さんはまず目を見開き、そしてひゃひゃひゃって笑い出した。何が面白いんだ。相手は笑いすぎて涙目になっている。
「あれマジで言ったの!?」
むすっとしたまま「そうですけど」と頷くと、そっかー相当悩んでたんだなーと感心するふりをしている。なんだこいつ。
「ごめんねーからかって」
からかわれてたのかよ。あとで葉賀さんにがっつり怒られればいい。
「そんなことより、葉賀さんと話してて気づいちゃったことがあって」
「何?」
いらつかせるようなおどけた声から急に真面目に切り替わるもんだからついたじろいでしまった。そんな真剣に聞くことじゃないのに。態度で話す内容は変わらない。
「私たち、推理してないそうです。ずっと」
「……そうなの?」
月緋さんは真面目に驚く。思い返せば当たり前のことなのだけど、思い返すことなんてずっとなかったんだから仕方がない。
「じゃあ俺らは何のバディだったの?野次馬?」
「そんなん一人でやっててくださいよ」
月緋さんは「それもそうか」なんて意味わからない納得をしている。
「とにかく、今回解決するってことは未経験で物事始めるのと一緒ってことね」
「そういうことになりますね」
大体、私が考えたことと同じようなことを考えたらしい。「とりあえず寝よ」と食べ終えたアイスの棒を持って立ち上がる。私も頷き、来た道を戻ることにした。
事件の深刻さと、時間との問題。お昼も確認したようなことを、改めて思い知る。歩きながら隣では月緋さんが「舞妓さん見る時間あるかなー」とスマホをいじっている。反応しない私を見て立ち止まり、それから少し上を首を傾けた。私も止まって振り返る。
「事件解決したい?」
「もちろんです」
そこだけ答えると、「前も確認したけど」と私の頭に片手を伸ばしてきた。正確には、時間に。
「今は不安定だけど。俺らならやれる」
時間を掬うように撫でた後、「俺が泉璃を守るから」なんて王子様めいたことを言った。
「柄じゃないですね」
「キャラ変えよっかな」
そんな簡単に変えられるものじゃないでしょ。そう思って月緋さんの顔を見ると、今日一番、穏やかな顔をしていた。「向いてますね」とだけ言っておいた。
部屋の前まで来て、「おやすみ」と挨拶をする。私も答えたところに、お風呂上がりの太陽さんが部屋から出てきた。
「ツキー、葉賀さんが呼んでたよ」
突然の太陽さんに驚きつつも、「俺絶対怒られるやつじゃん」と頭をかいて葉賀さんの部屋へ向かう。「泉璃も来る?」っつって巻き込もうとしてきたので丁重に断った。
やっぱ王子様には向いてないっぽい。私は太陽さんに挨拶をして、潔く寝ることにした。




