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迎えた朝と、朝食、そしてチェックアウト

皆さんは、朝食は米派でしょうか、パン派でしょうか?

昨夜解散し、ベッドにもぐり込んだのが24時を回ろうかという時刻だった。


自動車のけたたましいクラクションの音で目を覚まし、ベッドサイドの時計に視線をやった。6時30分の表示。6時間ほど眠った計算になる。旅先での睡眠時間としては充分な時間だ。リュックからインスタントコーヒーのスティックを取り出し、部屋に備え付けてあった湯呑みで寝起きのコーヒーを飲む。和柄の湯呑みに琥珀色のコーヒー。アンバランスの極みだよな……湯呑み片手に椅子に座ってぼんやりと考えていると、テーブルに置いていた携帯電話の着信ランプが点滅していることに気付く。


──はて、誰だろう?


私の"友人の数"は片手の指の数よりも少ないし、放任主義の両親が連絡をよこすとも考えられないし。まさか休日出勤の連絡じゃあるまいな。着信を知らせる青いランプが不気味である。可能性が最も高いのは会社からの連絡なわけで、起き抜け早々嫌な気分になる。かといって放置するほど私の精神力は強くないので、メールボックスを恐る恐る開く。


気になるメールの差出人、それは友人だった。今私が泊まっている宿の、同じ階にいる、あの友人からのメールである。本文には

「7時の朝食に間に合うよう食堂に行っている」とある。受信時刻は4時45分。同じ時刻に寝たと仮定して、起きたのがメールの送信時刻だとして……睡眠時間4時間30分。随分と早起きというか……もしかして、眠れなかったのだろうか。水色の熊さんパジャマを着て、同じ柄の枕をもってしても眠れなかったのだろうか。「おはよう、今行く」と短い返信をし、Tシャツにジャージの寝間着のまま、スリッパからスニーカーに履き替えただけのラフな格好でエレベータに乗り、1階で降りる。


この宿は、部屋の狭さとアクセスが不便(初めての宿泊の際、場所が特定しきれずタクシーを使ってしまった)という若干の不満はあるものの、朝食が素晴らしい。この朝食のおかげで、狭かろうがエレベータの音が不安だろうが、ホテルマンの表情が怖かろうが(私はデリケートな性格でもある)、指定都市に赴く際はリピートしてしまうのである。この宿は無料の朝食バイキングが用意されているのだ。和食、洋食、中華、100%のフルーツジュース数種類、牛乳、ミネラルウォーター、氷……と、これらが無料で飲み食いできるのだから、素晴らしい。デリケートな胃腸を持つ私としては朝食で和食が選べる、このメリットは大きい。以前別な宿に泊まった際、朝に慣れない洋食を詰め込んで、見事にお腹を壊してしまった痛くて辛い過去があるのだ。


エレベータを降りて、フロントの横手にある通路を抜けて食堂に入る。時刻は7時丁度である。朝の食堂の担当であろう従業員が「おはようございます」と眩しい笑顔を送りながら、トレイを手渡してくれる。礼を言って受け取り、開いたばかりでほとんど埋まっていないテーブルと椅子のセットの1番奥に、友人は座っていた。昨夜の水色熊さんパジャマではなく、モスグリーンのジップアップパーカーにダメージジーンズという、やはりワイルドな服装である。服装の温度差にまたしても笑いそうになるが、ぐっとこらえる。


「おはよう」


「おう、おはよう」


短く挨拶を交わす。挨拶した友人の眼は、充血していた。


「解散してからものの4時間ちょっとでメールしたでしょう? 眠れなかったの? 大丈夫かい?」私は友人に問う。


「あぁ、あれからDVDを観ていて。4時間は眠ったから、問題ない」友人は答えた。


「DVDって、どんなDVDを……」喉元まで出かかった台詞を私は飲み込んだ。あのプレイヤーの中身が気になったが、気持ちを抑え込む。立ち入った質問はしない方が良い。ここでまた爆笑を誘う回答が返ってきたら洒落にならない。昨夜の水色熊さんパジャマ事件で、私は学んでいた。


「ご飯を取りに行きましょう」心に後ろめたさがあると、妙な敬語になってしまう私の癖を知っているのか、知らないのか、黙って友人は立ち上がり、私の後ろに並んだ。


朝食選択作業の終わったテーブルの上。私のトレイには炊き込みご飯、ほうれん草のおひたし、卵焼き、鮭の塩焼き、納豆、味噌汁。純和食である。友人のトレイには、バターロール2個と苺のジャム、白米、梅干し、揚げ春巻き、春雨のサラダ、オムレツ、ウインナーソーセージ、コーンスープ。見事な和洋中の折衷、やはり朝から大食いである。


「いただきます」


「いただきます」


互いがそう言い、トレイの上の皿と椀を我々は黙々と片付けていく。


食後にそれぞれコーヒーを飲みながら、今日の流れを話し合う。宿を9時に出発し、指定都市駅まで向かう。再度ボストンバッグをロッカーに預け、私がショッピングセンターへ行ったのとは反対路線のローカル線に乗り、指定都市郊外駅へ移動。そこから30分歩き、15時まで遊園地で楽しむ。友人は右手を握り、親指を立てる恒例のOKサインを送ってくる。


「あ、ところで……」友人が私に問うた。「肩、大丈夫なの?」昨夜友人を眩暈へと追い込んだ、紫色に変色して倍に腫れ上がった私の肩を心配してくれている。


「大丈夫。薬が効いたみたい。痛くないし、腫れも大したことないよ」私は友人と同じOKのサインを返した。


2日めの流れも決まり、チェックアウトの時間まで後1時間ほど。9時にフロント前集合することにし、我々は準備のため立ち上がった。


友人は「せっかくだから」と、トレイを返却する前にオレンジジュースを追加して一息で飲み干した。私は友人の強靭な胃袋に、思わずため息が出た。


──2日めの午前9時。


部屋に戻り、着替えをし、寝癖を直して洗顔と歯磨きと髭剃りをする。忘れ物がないかを確認して部屋を出た私は、フロント前の椅子でスポーツ新聞を読んでいた。


「お待たせ」


頭の上から声が降ってきた。視線を上げると、ワックスとスプレーで固めた髪に、今日は皮紐のネックレスを装備した友人の姿があった。肩からは膨らんだボストンバッグが下げられ、背中にはリュック。


「忘れ物、ない?」私は言いながら自分のリュックを背負って立ち上がる。


「ない、と思う」友人が言う。


「よし、行きましょうか遊園地」私が言う。


「うん」妙に力のこもった声を出す友人。


2人ぶんの鍵をフロントへ返す。担当はあのホテルマン氏だった。今日も笑顔である。


チェックアウトを済ませ、やはりスムーズとは言えない自動扉を抜ける我々の後ろ姿にホテルマン氏が声を発した。


「ありがとうございました、どうぞ、お気をつけて」


(9話に続く)

私は断然お米派です。

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