到着、昼食騒動、そして別行動
旅先での昼食、皆さんは"こだわり"があるでしょうか?
山、河川、畑、田んぼ、自然豊かな我らが地元を出発して約3時間。安心、安全の電車に揺られること約2時間半。目的地某指定都市に到着したのはそろそろ昼食時に差し掛かろうとする時刻。さすがに指定都市である。駅構内は人でごった返している。面倒なので駅構内にある立ち食い蕎麦屋で昼食を済ませようかとも思ったが、さすがにそれは味気ないし、今回は私1人ではないのだ。
「昼ご飯、どこで食べる?」
友人に尋ねると、早口でどこでもいいと言う。妙にそわそわしているし、なんだかまたしても顔色がよろしくない。トイレだろうか。旅先でいきなり体調を崩されても困るので、大丈夫かと加えて尋ねる。すると友人は額の汗を拭いながら私に言った。
「人に酔った……」
──人に酔う。しまった。私はまたしても友人に対する配慮が欠けていた。そりゃあそうだ、我々が居を構えるあの地に比較すれば、ここは指定都市なのだ。そもそもの人口数が桁違いなのは当たり前。それに我々のような旅客もいれば出張で赴いている人もいるわけで、1番最後に降車したとはいえ、改札口へ向かう経路は人であふれている。幾度かこれを経験すれば多少は慣れるが、友人は今回、改札人混みの初体験だったのだ、そりゃあ神経も摩耗する。そう、かつて私がそうだったように。
「す、すまない、この人混みだもんね、俺も初めて来たときは人に酔ったんだよ、ちょっと休もう」
提案する私。うなずきながら額の汗を拭う友人。
駅構内を抜け、駅の裏手にある小さな喫茶店に入った。店内に客はおらず、人で溢れる指定都市とはいえ、こうした"穴場スポット"を探すのもまた、旅の一興である。初老の小柄なマスターが出してくれた水を一息で飲み干した友人。思えば中継駅から大量に発汗し、ろくろく水分も補給していなかったのだ、軽い脱水状態だったのかもしれない。2人で1杯650円という指定都市価格のアイスコーヒー(我らが地元、地方の片田舎では高くても450円である)を注文し、宿にチェックイン予定の19時までのプランを練ることにした。慣れない電車から解放され、顔色も戻った友人、昼食はラーメンが食べたいと言う。私は旅先での最初の食べ物は蕎麦というこだわりがあるので、それは譲れないと返す。指定都市到着から1時間も経過していないというのに、もめ始める私と友人。
実のところ、お互い頑固なところがある。どちらかが折れないと、これは喧嘩になる雰囲気。結果、私が折れた。友人は今回が初めての指定都市旅行なのだ。先輩は後輩を立てるものである。
しかしながら、いくら指定都市に来慣れているとはいえ、思えば私、宿泊先から1番近い飲食店店舗に飛び込みで入るか、コンビニエンスストアで済ませるか、蕎麦屋という3つの選択肢しか持っていなかったので、ここからさらにもめる。駅近くのラーメン店は把握していないし、空腹でいらいらし始めるし、2人の間に禍々しいオーラが出始めたのを、キッチンにいたマスターが察知したらしく我々のところにいそいそとやって来て、この喫茶店を出て徒歩5〜6分のところにラーメン店があることを教えてくれる。助かった。ラーメン店までは1本道のようだし、これから約6時間、過ごし方のディスカッションは再開された。お互い趣味嗜好も違うし、買いたいものや見たいものも違うということで、初日は"自由行動"ということで話は決着がついた。
旅のプランでもめるなら、出発の前にあらましの流れを決めておけばいいじゃないか、という至極まっとうで、的確な意見もあるだろう。しかし……なぜか我々、行き先が指定都市、宿泊先は私が予約する、これだけで満足してしまっていた。計画というのは、大事である。旅先で私は、少しだけ反省した。
水とアイスコーヒーで喉の渇きを潤した私と友人は、喫茶店のマスターの教え通り、路地裏を進み、ラーメン店へと無事たどり着いた。昼食時のピークを過ぎたからか、店内はさほど混んでおらず、入り口にあった券売機で品定めをする。私は迷うことなく500円の醤油ラーメン。旅先ではあっさりしたメニューを選ぶことにしている。旅先、出先でお腹を壊してしまってはいけない。私は胃腸がデリケートなのである。かたや友人は、豚骨ラーメン大盛に、チャーシューのトッピング。ラーメン好きを自称するだけあって、飛び込みで入った店で選ぶメニューにしては、ヘビーだなと思いつつ、我々は店員に食券を渡す。
優しいマスターに助けられたねぇ……雑談をしていたら、丼が運ばれてきた。さすが、指定都市に店を構えているだけあって、数をさばくのに慣れているのだろう。手際が良いというか、速い。ちょっとふやけた麺に、筋張ったメンマ、友人の豚骨ラーメンはスープに浮いた油が存在感を主張し、ぺらぺらのチャーシューが"気持ち程度"トッピングされていた。空腹は最高のスパイスである。我々は遅めの昼食を完食し、店外へ出た。
店外へ出るや友人が私に問う。
「旨かった?」
「ん、あぁ、うん……」
「そうか………」
何も言わず再び駅へと向かって歩く我々の背中には、ちょっとした哀愁が漂っていたと思う。
──再び人が混みあう駅構内。私は指定都市外れにあるショッピングセンターに行くため、ローカル線の切符を買った。友人は大型書店と古書店を回りたいと言い、肩から下げた大きなボストンバッグを探り、地図を取り出した。
さすがにこの大荷物では移動時に困るだろう。ロッカーに預けてはどうか?と提案すると、目を丸くして、そんなものあるの?と友人。そりゃあるでしょうよ、テレビドラマとか、映画の台詞に「駅のコインロッカー」ってよく言ってるじゃないのさ。ここは旅の先輩がリードしなければ。ロッカーまで連れだって移動して、ボストンバッグをロッカーに押し込もうとする……が、地元A駅から中身が気になっていたそのボストンバッグ、重たいわ、ぱんぱんに膨らんでいるわで、なかなか入らない。押し込む角度を調整しつつ、ちょっと強引に押し込むと、何とか収まってくれた。やれやれである。押し込んだとき、バッグの中から何かが折れるような……なんだか嫌な音がしたけれど、私は聞かなかったことにした。
さて、ここからは別行動である。私は指定都市郊外へ。友人は書店巡り。本当に1人で大丈夫か?と問うと、友人は地図をぱんぱんと掌で叩きながら、OKのサインを送ってくる。旅慣れしていないとは言いつつ、友人も立派な大人である。あまり心配しすぎても、うざったいだけだろう。
19時に駅構内のキオスク前で集合を確認する。
そして私と友人はそれぞれ、別方向へと足を向けて歩き出した。私はローカル線のホームへ移動する。ここでは時刻表など確認する必要はない。だってここは指定都市。地方の片田舎の悲しきことよ……1時間の間に圧倒的本数が走る指定都市の電車が、ホームに滑り込んできた。
(5話に続く)
下調べは大事。反省です……。




