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駅と、荷物と、疾走と

──再び指定都市駅。


チェックアウトを済ませ、大人2人、遊園地ではしゃぎまわり……。指定都市郊外駅発のローカル線を降り、再び指定都市駅へと戻った我々は、妙な疲労感に襲われていた。日常にある非日常を堪能し、楽しいプライベートタイムは後少しで終わってしまう。赴いた指定都市を離れ、自然豊かな山と田んぼと畑と河川に囲まれた我らが地元に戻り、明日からは仕事である。


私と友人は駅構内にある蕎麦屋のテーブルに向かい合って座っていた。友人の隣には重量級のボストンバッグ。思えば朝食以降、遊園地のソフトクリームで栄養補給をしたくらいで、昼食はまともに摂っていなかった。私に限っていえば、意識が学生時代にタイムスリップしていたおかげでソフトクリームは半分も食べていないし、大食いの友人は昼食がソフトクリームだけでは足りるはずもない。


私の前にはざる蕎麦(780円)、友人の前には大盛り天ざる(1,680円)が置かれ、2人とも無言で蕎麦をすする。指定都市駅裏にある喫茶店のコーヒーの値段もそうだが、今我々がすすっている蕎麦の価格を取っても"指定都市価格"が見て取れる。ざる蕎麦780円、正直高い。思わず「高いな……、ちょっと歩くけど、駅前の立ち食い蕎麦屋に行く?」という提案を「いや、ちょっと疲れた、多少高くとも構内で済ませよう」という話になり、提案した私も栄養不足が影響し、歩きたい気分でもなかったので値段には目を瞑ったわけである。


16時過ぎという時間もあってか、指定都市駅構内の蕎麦屋でも客席はほとんど埋まっていない。


15分と経たぬうちに蕎麦を間食し、蕎麦湯と緑茶で食休みを取っている最中、友人が口を開いた。


「家にお土産買わなくていいわけ?」


「うん?あぁ……そうだね、ご当地銘菓でも買って行こうかな」


いくら放任主義を貫く私の家族とはいえ、お土産なしは無礼かもしれない。


「じゃあ、ちょっと土産物屋を物色しますか」私の提案に友人は頷いた。17時に初日の合流地点だったキオスク前で落ち合うことにし、それぞれ会計を済ませて蕎麦屋を出る。


「ようやく君の好きな蕎麦にありつけたわけだが……高いな」と友人。


「うん、高いね、地元ならざる蕎麦にもう1品注文できるもんね」と私。


「旨かった?」友人が質問してくる。


「至って普通のざる蕎麦の味がしました。君は?」私は答え、質問を返す。


「ざる蕎麦と天麩羅の味がしました、茄子の天麩羅は苦手だ」友人が答える。


「高いなぁ……」


「高いねぇ……」


言ってしばし無言になる2人である。ボストンバッグをロッカーに預けなくていいのか?の私の問いに、友人は利用料が勿体ないとの返答。確かに……そりゃそうだ。


「じゃ、キオスク前で」


「了解」


サインを送りあい、別れて指定都市駅構内にある土産物屋へと向かった。



──17時、キオスク前。


土産物を入れた紙袋を下げてキオスク前に立つ私の視界に、同じく紙袋を下げた友人の姿が入る。どうやら我々、店舗は別だが中身は同じ物を買ってしまったらしく、お互い苦笑してしまう。そりゃあ、ご当地銘菓だもの、これを買わずしてここに来たとは言えないわけで。



──10分後、コインロッカー前。


「さてね、問題は荷物だよね」私が言う。


背負っているリュックはまずいいとして、重量級のボストンバッグに、初日の収穫である書籍の入った袋が2つ、ジャケットとTシャツが入った包みが1つ。そして今購入したお土産が入った紙袋が2つ。リュックに詰めれるだけ詰めたとして、どうしても2人の両手は塞がってしまう。機動性がゼロの状態なので、あまり動けない。


「うぅーん……」唸る私と友人。


乗車する中継駅行きの電車の到着は約1時間30分後。駅構内のカフェにでも落ち着ければそれで安泰なのだが、時間が悪い。指定都市駅の構内は下校途中の学生、退勤後の社会人、我々と同じ旅客などなど、人であふれかえっている。2人で考えを巡らせていると、友人が言った。


「新幹線の改札の方にもカフェがあるみたいだよ、昨日、君を待っている間に構内全体を散策してみたんだけれど……そこはどうかな?」


「お、まじですか、よし、だめ元でそこに行ってみよう」


リュックを背負い、脇にショッピングセンターの包みを抱え、痛む左肩を庇って右手にお土産の入った紙袋を持った私と、リュックを背負い、右肩に重量級のボストンバッグを下げ、両手に1つずつ書籍の入った袋とお土産の入った紙袋を持った友人は、エスカレータで新幹線改札口近くのカフェへと向かった。


幸いなことに、やや混みあってはいるものの、荷物を置いて座れるだけのスペースはある。これ幸いである。荷物監視係を買って出た私の代わりに、友人がアイスコーヒー2つをトレイに載せて持ってきてくれる。礼を言い、やっと一息である。時刻は17時30分を回ったばかり。アイスコーヒーで喉を湿らせながら、私は時刻表を確認する。18時40分発、中継駅行きの電車に乗って、そこから乗り継いでA駅行きの電車に乗って──……あれ?待てよ?その時間の指定都市駅発の電車に乗ったとして、中継駅着が20時過ぎ。待ち時間が40分あって、そこからA駅行きの本線に乗ると……終電に間に合わないんじゃないか?


失念していた。指定都市駅発、中継駅経由A駅行きの電車であれば、18時40分発の電車で充分間に合う。がしかし……問題はその先だ。我らが地元は本線が1時間に1本しか走らないし、A駅発の終電はB駅にしか停まらない。B駅より先のC駅行きの終電に乗るなら、地元A駅の時刻表に合わせて指定都市発の電車も1本早く乗車しなければB駅からC駅の区間の乗客は始発まで足止めを食らうのだ。しまった……私の体から一気に血の気が失せる。


「大変だ! このままじゃ、今日中に家に着けない!」慌てて立ち上がった私が言う。


「ふぇ? なんで?」友人が気圧された顔で言う。


「だからね、ここからA駅までは18時40分の電車でも間に合うんだけど、A駅からの電車、終電に間に合わないんだよ! 急いで出よう、さ、荷物持って!」アイスコーヒーを一息で飲み、友人を促す。


「いや、でもさ……」友人は言いかけたが、この時友人の声に耳を貸す精神的余裕が私にはなかった。


リュックを背負い、荷物を持って、駆け足で在来線のある構内に戻る。窓口には長蛇の列。先に切符を買っておいたのは正解だった。改札窓口の係員に地元A駅発の終電に間に合うかを尋ねる。手早く手元の分厚い時刻表を確認した係員は、後5分後に発車する中継駅行きの電車に乗らないと間に合わないと教えてくれる。


「やばい、やばい、やばい! 急いで! 早く!」まだ何か言いたげな友人だったが、話を聞いている時間はない。


中継駅行きの電車が停まっているホームに向かって全力で駆ける。背中に背負ったリュックが左右に揺れて、不快感を覚える。走る振動で片手で持ったお土産の紙袋が太腿にあたって、不快感は大きくなる。左肩に痛みが走る。額と背中に滲む汗。後ろを着いてきているであろう友人を確認する。やはり重量級のボストンバッグが機動性を奪っているのだ、友人は後方5mあたりで私を追走している。


間に合うだろうか──。


改札に切符を通し、また駆ける。


「指定都市駅発、中継駅行き、間もなく発車時刻となります、ご利用のお客様は──」アナウンスが流れる。


全車両の扉が閉まることを知らせる電子音が流れるぎりぎりのタイミングで、私は"開"のボタンを押した。扉が開く。間に合った……友人は──?


扉の向こうに視線をやると、肩から下げたボストンバッグを大きく揺らし、お土産の紙袋と書籍の入った袋を片手で持ち直した友人が、大きなストライドで駆けてくる。


「早く!」と私。


「うおおっ!」吼える友人。


電子音が鳴り響く。扉よ、閉まってくれるな……旅慣れも電車慣れもしていない友人を1人、指定都市に放っておくなんて無慈悲な真似は止めてくれ……。


扉の前まで駆けてきた友人、ほとんど躓くような格好で電車に乗り込んだ。その直後、すべての車両の扉は閉まり、発車を知らせるアナウンスが流れ、電車は走り出した。


入り口の扉付近に座っていた乗客たちの視線は、我々に注がれていた。


(最終話に続く)



時刻表の確認は、しっかりしておかなければなりません。駆け込み乗車は危険です。時間に余裕を持った行動を。


と、自分に言い聞かせています。

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