表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
希う  作者: 樒 七月
PR
36/45

36 記憶

 俺の涙を見て不安そうなユーキに、適当な言葉をかけられなかった。

 ケータの視線が痛い。

「イチロー、お前」

 眉を寄せて訝しむケータに、顔が強張った。

 もう駄目だ。もう、一緒にいられない。

 ケータには後日気付かれないようにケルンを渡そう。戦闘範囲を満たせばケルンを渡すことは簡単だ。勝手に戦闘開始させて、負けを宣言すればいい。ケータは条件を摂取できないだろうし、気付いても追いかけては来れない。

 腕を掴もうとする手を振り払い、全力で逃げた。

「イチロー!」

 ケータの声が痛かった。


 ケルンを4個手に入れて、記憶を取り戻した。

 ケータにクリーガーについて教えてもらって戦って得た1個。ヨウスケに俺が戦う理由を説明して貰った1個。ユウジに勝って得た1個。

 そして、ケータには秘密にしていたユーキから貰った1個。

 ユウジに勝った時、記憶の空白部分が埋まった気がした。何を忘れていたのか、全部わかった。

 昔のことから最近のことまで全部。忘れてはいけなかったのに。

 小学校に入学する前、引っ越しで遠くに行ってしまったヨースケ。楽しかった思い出と共にヨースケのことを忘れた。幼馴染みは4人ではなく3人だったと、記憶を改変させていた。

 家に帰らない両親。世間体のために離婚しない夫婦だった。それぞれ別の相手がいるから、家に帰ってくることはない。俺がクリーガーになった日に母親が帰ってきたのは偶然で、衣替えのためだった。あの人にとって、家は倉庫代わりなんだ。でも、「自分の家だから勝手なことはさせない」と、誰かを泊めるときにはメールするように言われていた。それだけは覚えていて、ケータの時も、ユーキの時も連絡はしていた。

 そして、一番忘れてはいけなかった記憶。

 目の前の交差点で信号が青に変わるのを待っている小学生。女の子で黒のランドセルが印象的だった。

 この交差点は交通量が多く、交通事故が多発している場所だった。狭い歩道なのに自転車も通行可能で、すれ違うのにも注意が必要だった。

 前から歩いてくる男性とすれ違うために道の端に寄った。ドラムバッグが邪魔にならないように前で抱え、通り過ぎるのを待った。

 そのまますれ違うと思っていたのに。

 男の手が、小学生のランドセルを押した。

「え……」

 少女が道路に向かって倒れ込む。

 信号は変わっていない。

 迫ってくる車。

 少女に向かって手を伸ばしたけど、何も掴めなかった。

 少女の体が浮いた。

 浮いて、落ちた。

 誰かが俺の肩を掴んで何かを言っていたけど、何を言われているのかわからなかった。

 伸ばした手を、引き戻すことができなかった。


「ケータの妹だったんだ」

 ケータの取り戻したい妹が、俺が助けられなかった少女だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ