35 反撃
一瞬。その隙が勝敗を決する。
何度も大会で感じたあの感覚が甦る。自分が強いことを確かめるための手段だった。強いから負けない。負けないから、誰かを守ることができる。
あのときの俺は、それが正しいと信じていた。
「同じなんですよ」
眼前に迫っていた蹴りを、左腕で受けた。
嫌な音がした。激しい痛みが走る。骨が折れている。容赦ない一撃の後に眼前に拳が振り出された。途切れることなく続く攻撃を避け、時には受けたりしながら隙を窺った。
隙なんて出来ないかもしれない。それでも反撃する機会はあるはずだ。そのタイミングさえ逃さなければ。
攻撃を受けると痛みで意識が逸れそうになる。すぐに治るけど、骨が折れる痛みを耐えるのは辛かった。これを喉を潰された上で無抵抗で受けたとしたら。想像以上の痛みだろう。
クリーガーになって身体能力が上がっているから、思った通りに動ける。こう動けたら、と思っていたことが実際に出来るのは大きい。もっと速く動けたら、もっと高く跳べたら。それが出来るから、油断しない限りは負けない。
ユウジよりお兄ちゃんの方が強い。だから、大丈夫。
「わかってる」
俺が声を発したのが予想外だったのか、ユウジの動作が一瞬遅れた。
その一瞬に、左足を軸にして右足を振り払った。
脇腹に膝が当たり、骨が折れた感触がした。気持ち悪い。痛みを知っているから、この感触は苦手だった。こんなこと、もう二度とすることはないと思っていたのに。
その嫌悪感を振り切り、顎に下から掌底を打った。
「イチロー!」
ケータの叫ぶ声が聞こえた。ユウジは崩れ落ちた。
動けなかった。走ってくるケータとユーキの姿が滲んで見えた。
お兄ちゃん。俺は間違っていたんだ。あの時からずっと。
自分が正しいと思っていたことが間違っていたとき、どうすればいいのかな。
誰かのためを理由にしていれば楽だったんだ。
ケータ、君に協力したのは、ただの自己満足なんだ。




