34 戦うこと
「お前まで来なくても……」
あの戦闘から3日後、同じ場所、同じ時間で相手を待っていた。
腕時計の液晶に表示された相手の名前はユウジだった。その名前と一字違いなユーキは、俺の右隣で不貞腐れていた。
「イチローがアイツと戦うのを放っておけない。アイツがイチローの咽喉を潰したら、割って入るから」
「お前が戦っても、アイツには影響しないんだ。危険を冒しても戦う必要はあるのか」
ケータは左隣で睨んできた。
確かにユウジと戦うのは危険なだけだ。ユウジはケルンを一つ失ったことで、何かを失うことなんてないだろう。それほど、勝ってきているはずだ。
意味もなく、相手を痛めつけて。相手からケルンを奪って。傷付けるだけの行為は、自己満足で自分勝手で自己中心的だ。
強いということは、痛みを知っているはずなのに。強くなるためには痛みを伴ってきたはずなのに。この戦いに参加しているんだから、何かを失う辛さを知っているはずなのに。
それを知ってでも、欲求のために人を傷付ける奴を見過ごせなかった。
「勝てなくても良い。ただ、この戦いの意味を示したいんだ。失ったものを取り戻すための戦いは、楽しむためのものじゃない」
「……それでもお前が戦う理由にはならないけど。まあ、俺の分は殴ってこい」
ケータは諦めたように背中を叩いた。
ケータには呆れられたり諦められたりしてばかりだ。でも、俺の行動を止めようとしない。
ケータは俺の何を知っているんだろう。クリーガーの協力関係を築く以前に、会ったことがあるのかもしれない。忘れた記憶の中にある出会い。それはヨウスケと同じようなものなのか。
思い出さないといけない。だからこそ、ユウジとの戦いでは勝っておきたい。「エンデ」は言いそうにないから、気絶させることになるか。死なない程度の攻撃。護身術として習った格闘技をこんな形で使うのは嫌なんだけど。そんなために強くなったわけじゃないのに。
でも、今はそんなことは言っていられない。ユーキは条件を摂取して準備してくれているし、全力で戦おう。時計が震え始めた。
「本当に来たんですね」
堂々と、正面から歩いてくる。
ケータは小さく舌打ちし、ユーキは構えた。
「新しいクリーガーのお友達ですか。なぜここにいるんですか? 助けられたら負けるんですよ」
「自分の不利になるヤツは連れてくるなってことか?」
「ええ。クリーガーは人質にできますから。条件を摂取しているようですしね」
条件を摂取しているクリーガーを傷付けても負けにはならない。だからこそ、そのクリーガーを人質にして相手に「エンデ」を言わせる手段がとれる。人質が逃げようとして、相手が助けようとして、それが共闘だと判断されても負けになる。条件を摂取したクリーガーを連れてくるということはそういうリスクがある。
確かに、ユーキが人質になったら助けようとするに決まっている。でも、それで負けても良いし、ユーキが簡単に人質にならないことはわかっている。ケータは一回戦っているから対象ではないし、条件を摂取していないから一般人扱いだ。
腕時計をユウジに向けた。
「フェスト」
この単語を言う日が来るとは思わなかった。自分から奪い奪われる戦いを始めることになるとは。
でも、ユウジに言わせたくはなかった。それは主導権を握られることと同じだ。ユウジの遊びに付き合っているのと同じだ。
「ふふ。あなたも僕と同じなんですよ。守っているつもりで、他の誰かを傷付けている。一人を守るためなら他人が傷付いても良いと思っている。結局は同じなんですよ」
わかっている。戦うとはそういうことだ。誰も傷付かない戦いなんてない。
守りたいと思うことは偽善だということくらいわかっている。
お兄ちゃんがそう教えてくれたんだから。




