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希う  作者: 樒 七月
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33/45

33 負けること

 一瞬の判断が勝敗を決する。そこにクリーガーの身体能力が加わると、負けは確定だ。

 思わず攻撃に構えたけど、追撃はヨウスケに止められていた。ヨウスケは条件を摂取していたのか。

「早く!」

 急かす声に、素早くケースの中の液体を舐めた。蓋を外しておいて良かった。

 一歩でケータのところまで跳んだ。ケータは意識があり、呻きながら脇腹を押さえている。条件を摂取していないときに、クリーガーに攻撃されるなんて。

 ケータの痛みを想像して、頭の中の何かが切れた音がした。

「クリーガーが集まって仲良しごっこですか?」

 ヨウスケに攻撃を仕掛けながら、男は弾んだ声で訊いてきた。表情も愉快そうに口に笑みが浮かんでいる。整った容姿に、笑みが歪んで見えた。

 こいつが残虐なクリーガーか。ケータが気絶していないのは手加減して蹴ったからだ。気絶させるとそこで戦闘終了になるから、戦闘を長引かせるためには力加減が必要だ。

 実力があるからこそ、そんなことができるんだろう。ヨウスケは防御に徹していて、男の方が余裕だった。このままだとヨウスケが危ない。まずはこの戦いをどうにかしないと。

 人差し指を噛み、ケータの口に指を突っ込んだ。ケータは深呼吸して顔を上げた。

「エンデ」

「は? 何ですか、それ」

 男は攻撃を止め、近付いてきた。ゆっくりと、一歩ずつ距離は縮んでいく。

 ヨウスケは男より早く傍に来て、俺の前に立った。

「つまらないですね。簡単に負けを認めるなんて、君の取り戻したいものは大したものじゃないんですね」

「お前と戦うくらいなら、1回負けるくらいなんでもない」

 ケータは口を拭い、立ち上がった。

 負けを認めることは、願いを否定することじゃない。自分が勝てないと思ったとき、それと同時に逃げられないとわかったとき、そのときは「エンデ」と言おう。そう、決めていた。

 逃げられるなら、負ける必要はない。戦わなくていいだけだ。でも、今回のように相手が悪いときは、負けを認めて二度と戦えないようにするのが一番だ。ユーキと戦った後、ケータはこの男とは戦わないと決めた。俺も代わりに戦わなくて良い。自分の負けで良い。1回負ける価値はある、と言っていた。

 ケータがそう決めたならそれで良い。ケータは戦う必要はない。

 男は口元を歪めて嘲るように鼻で笑った。

「君が負けたところで、相手はまだ二人いるんですよ。そこのご友人も負けを認めるんですか?」

「俺はお前とは戦わない。さっきのは時間稼ぎだから」

「まあ、さっきので実力はわかりましたからね。で、後ろの君はどうするんですか?」

 ヨウスケの後ろにいる俺に目を向けた。

 慇懃無礼というのはこういうことか。クリーガーの戦いに礼儀を求めてはいないけど、こうも丁寧語で話されると感情を逆撫でする。二人称が「君」なのも、下に見ている証拠というか、感情を刺激しようとしているというか。

 挑発に乗ってやる。戦いたいなら戦ってやる。お前の思い通りにはさせない。

「お前が戦いたいなら戦おう」

「「イチロー!?」」

「痛みは怖くないんだ」

 痛みより、何かを失うことが怖いんだ。

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