23 欲しいモノ
ケータが苦しそうにもがいている。腕を引っ掻かれても手を放さない。
このままだと危ない。気絶するだけなら良いけど、死んでしまうかもしれない。
ユウキの腕を折るか。でも、それでケータの首の骨が折られたら。
怖い。また、誰かが死ぬのを見たくない。
代わりになれるならなってやるのに。俺を狙えば良いのに。どうやったらユウキは手を放すんだ。
俺が出来ることなんて。
「ユウキ! 俺がお前にあげられるモノなら何でもやるから!」
そう叫ぶと、ユウキの手から力が抜けた。ケータは落下し、噎せていた。
良かった。ケータが無事で本当に良かった。
下を向いてケータの無事を確認していると、ユウキの腕を掴んでいた手を反対の手で掴まれた。逃がさないというような力加減に、顔を上げて視線を合わせた。
「……本当に?」
「ああ。その前に、お前が取り戻したいモノを教えてくれ」
腕から手を放し、掴まれた手に手を重ねた。
ケータが死ななかった代償はいくらでも払う。もう誰かが死ぬところを見たくなかった。クリーガーならどんなに傷付いても傷は治るけど、死んでしまったら命は戻らない。4回勝っても取り戻せない。だから、俺があげられるモノなら何でも差し出そう。それは自己満足だ。
ユウキのためでもケータのためでもなく、自分のためだった。
「ない」
「取り戻したいものが? 失ったものも?」
「オレには最初から無かったんだ」
ユウキは吐き捨てるように言った。
それは嘘だ。いや、嘘を吐いているようには見えないから、勘違いしているのか。クリーガーの戦いに参加できるのは、何かを失った者だ。それを取り戻すための戦いだから、何かを失っていることが前提になる。俺のように失っているものがわからないのか。もしかして、失っているけど取り戻したくないとか。
「生まれた時から何も無かった。すぐに施設に預けられたから両親の顔は知らない。金もない。人が寄ってくるのは顔が良いから。反吐が出そうだった」
ぎゅっと握られる手は小さい子供のようだった。お願い、手を放さないで。一人にしないで。そう言っているようだった。
周りにいる人が信じられなかったのかもしれない。自分には何もないから。寄って来るのは利用しようとしているから。
だから、クリーガーの協力者がいるケータが許せなかったのか。
「俺は何をあげれば良い?」
「何でも良い?」
「俺があげられるものなら」
「家族愛が欲しい。親でも兄弟でも良い。家族に与えられる愛が欲しい」
即答だった。つまり、本当に欲しいモノだ。
まさか、そんなモノを要求されるとは思わなかった。家族愛なんて「そういえばそんなモノもあったな」と思う感情だった。確かに、家族がいなかったら与えられることはないだろう。施設の職員は家族愛とは違うと感じたわけだ。
でも、俺だって両親から貰った記憶がない。兄さんもあんな性格だから優しくされた思い出もない。俺が知っている家族愛は、従兄弟のお兄ちゃんから与えられたモノだ。
それがユウキの望むモノかわからないけど。それが欲しいならいくらでも与えよう。それはお兄ちゃんのようになりたい俺の願いとも合致する。
「いいよ。ユウキが望む『家族愛』をあげる」
「絶対だからな! 今更無しってのはナシだから! 裏切ったら許さない」
「ああ、わかって」
「またお前は!」
頷こうとしたところで、ケータの声が被った。声が出しにくいのか、咽喉を擦っている。無理に話さなくても良いのに。
「お人好しすぎるだろ。俺のためとかだったら止めろ」
「ケータのためじゃない。自分のためなんだ」




