22 ユウキ
一歩先は崖のようになっていた。だから青年が見えなかったわけだ。高さは学校の2階くらいか。ケータは身体能力が上がっているから下りることができたけど、俺は今クリーガーじゃないから骨が折れるかもしれない。鞄から小瓶を取り出し、液体を指に付けて舐めた。戦うつもりはないけど、準備はしておいた方が良い。いつでもケータを助けられるように、その場で様子を見ることにした。
「お前が戦うことが目的のクリーガーか?」
「そう言われてるみたいだね。残虐じゃない方、な」
ジュンの情報では自分が戦ったクリーガーということだったけど、合っていて良かった。もし残虐な方だったら俺が戦うつもりだった。戦い慣れていないケータでは経験不足で力不足だ。俺と模擬戦闘をしてある程度は戦い方を覚えたけど、経験差はどうしようもない。今回の相手も強いみたいだけど、咽喉を潰してこないならちゃんとした戦いだろう。
ケータが動いた。小柄な体格を利用して、腹部を狙って突撃した。
「アンタは2回負けてないね?」
「ああ」
会話する余裕があるようで、攻撃を避けながら青年は笑っていた。視力が上がって良く見えるようになってわかったけど、イケメンに分類される顔だ。
そういえば、腕時計をクリーガーに向けると、液晶に名前が表示されるんだった。ケータもジュンも自分で名乗ったから確かめなかったけど、青年の名前は聞いていない。液晶を見ると、『ユウキ』と表示されていた。
ケータとユウキの戦闘は長引いていた。ユウキは楽しんでいて、戦うこと自体が目的だと言っていたのがわかる。ケータはそれを覚悟していたから、冷静に戦えている。知らなかったら、長引く戦闘にイライラするだろう。攻撃が受け止められ、躱される。それだけじゃなく、急所を外して拳と蹴りが繰り出される。すぐに治るけど、痛みはクリーガーになっていない時と同じだ。戦いを楽しんでいる相手にどうやって負けを認めさせるか。気絶させるのは死亡のリスクがあるからケータには出来ない。戦いに満足したら「エンデ」と言ってくれるか。長期戦は覚悟していたけど、ケータが受けた痛みを想像すると辛かった。
戦闘時間は1時間の制限がある。そして、クリーガーの時間は条件を摂取してから約20分だ。そろそろ補給しておいた方が良い。
「ケータ」
名前を呼ぶと、ケータは軽く跳んで目の前まで来た。ユウキも条件を摂取することがわかったのか、笑みを浮かべながら様子を見ていた。
クリーガーになって傷が塞がったから、もう一度針で指を傷付けた。すぐに治るため、人差し指に針を刺して直接ケータの口に指を入れた。
何度もやっていると慣れてくる。ケータも抵抗がないみたいで、表情を変えることなく指を舐めた。
「は? アンタ、一般人じゃないの?」
ユウキはペットボトルを片手に驚いた顔をしていた。ペットボトルで条件を摂取しているのか。
条件は唾液か。誰かが飲んだものなら唾液が飲み口に付き、中身に混じる。ジュンもそうやって摂取していたらしい。容姿が良いって得だ。
ケータではなく俺に訊いてくるなんて、動揺しているのか。
「今クリーガーになってる」
「クリーガーが条件を与えるなんて」
「協力してるからな」
ケータは口を拭ってユウキに向き直った。
ケータが言い終わると同時に、ユウキが跳んできてケータの首を片手で掴んで持ち上げた。
突然のことで対処が遅れた。
「やめろ!」
「何で、何でアンタに!」
ケータの首を掴む手を掴み、力を入れた。それでも放れない。
「何でも持っているアンタに協力者がいるんだ!」




