21 次の戦い
「先にクリーガーになっておくか」
ケータの提案で、ジュンが言っていた広場に向かう途中で鞄から裁縫セットを取り出した。
左手の小指を針で突き、血を出してケータの手に付けた。ジュンの時は咄嗟に口に指を突っ込んだけど、急ぎじゃないなら直接よりこっちの方が良いだろう。ケータは何も言わずに手に付いた血を舐めた。
「戦うことが目的のクリーガーか。強さに自信があるんだろうな」
「4回勝った後、権利を行使しないでプールするっていうのはできるのか?」
「できる。最大9回、プールできるらしい。権利は2回分だな。プールした分は、3回負けたときに相殺される。この戦いは、棄権しない限り抜けられないんだ」
ケータは眼鏡をケースに入れ、レンズを通さない目で俺を見た。その目に、戦いに参加する意志の強さが見えた気がした。
取り戻したいものが手に入ったら棄権すれば良いのに。それでもそれ以上のモノを望むのか。3回負けたら何かを失うのに。また同じモノを失うかもしれない。それ以上のモノかもしれない。それなのに、参加し続けるなんて。
人間はなんて強欲な生き物なんだ。
「俺は妹を取り戻したら棄権するけどな」
「ああ。俺もお前と一緒に棄権する」
「良いのか? お前の取り戻したいものは?」
「ケータが棄権する時に取り戻していなければ、それまでのものだったってことだ」
クリーガーの戦いに参加した理由は、取り戻したいからじゃない。失った記憶を取り戻すというのは後付けの理由だ。
本当の理由は。
「お兄ちゃんみたいになりたかったんだ」
「お兄さん?」
「いや、兄さんじゃなくて、従兄弟のお兄ちゃん。ケータに協力しようと思ったのも、お兄ちゃんへの憧れだった」
今考えれば、それが理由だった。戦いに参加したきっかけは記憶を取り戻すためだったけど、それは汐里に指摘されたからだ。でも、それは誰かを犠牲にしてまでも取り戻したいものじゃない。悩んでいたところにケータに逢った。
ケータに協力したのはお兄ちゃんへの憧れだ。そして、その理由は失った記憶よりも重い。だから、ケータが棄権するなら参加し続ける理由はない。
左手の小指を口に含んだ。血の味が、決意を固くする。
目の前に見えてきた広場は、賑わっているように見えた。ジュンが示した住所はここだ。広い敷地の中で、人通りが少ない場所があるのか。
入口で案内図を確認し、ケータが検討をつけた場所に向かうことにした。
「よく分かるな」
「自分が行きたくない場所だ。最初の公園もそうだった」
自分が行きたくないから、他の人も行きたくない。そういうことか。最初に戦った公園も、薄暗くて人気がなかった。ジュンの時は、夕方で人通りが少なくなっていた。今回は人気がない方だ。
進むにつれ、人通りが少なくなっていく。傾斜になっていて、小さな丘のようだった。上りきると、なだらかな坂が広がっていた。確かに、ここに来るひとは少ないだろう。坂を上るのは疲れるし、上っても何も無いなら上る価値はない。
坂を下って行くと、腕時計が震えた。20メートル以内に人影はない。辺りを見回していると、ケータが走り出した。
「フェスト」
慌てて追いかけた先に、ジャージを着た青年がいた。ケータはその青年に腕時計を向けていた。
戦いが始まる。
青年は構えることなく、手に持っていたスポーツドリンクを飲んだ。




