13 ジュン
ケータと出会って1ヶ月が経った。衣替えは済み、白い半袖のシャツの下にTシャツを着ていた。外にいると汗が滲む。
放課後は公園に寄ることが習慣になってきた。宿題をしてから試験対策の勉強をし、手合せをして帰るのが一連の流れとして成り立っている。雨の日は、ファーストフード店か俺の家で勉強とクリーガーとの戦い方を話し合うことに決めた。
この一ヶ月、腕時計はクリーガーに反応したけど戦うことはなかった。時計が反応してもクリーガーを見つけられない。夕方は人通りが多いから、特定できなかった。前に戦ったような人通りの少ない公園の方が良いかもしれない。でも、あの公園は人通りが少ないというより、人が来ることがないように思える。適度に人がいないと、クリーガーにも出会えない。
あと一週間経ってもクリーガーを探せなかった場合、場所を変えようと決めていたところで。
「あの、クリーガーですか?」
マスクをした小柄な男子が声をかけてきた。このジャージは、一駅先の高校か。
朝に包丁で切って怪我をした指から絆創膏を剥がし、爪で傷付けてからケータの口に入れた。ケータはクリーガーになって俺の腕を取って跳び、マスク男子から距離を取った。
腕時計が反応しているのに気付いていたけど、まさか向こうから特定されるとは。マスクのせいで、表情が読みにくい。大きな目は、弱く揺れていた。
時計が振動した。タイミングが良すぎる。これで、戦闘可能になった。
「フェスト」
オドオドと気弱に振る舞っていたけど、宣言する声は強かった。初めて戦うというわけではなさそうだ。ということは、俺達より場数を踏んでいる。
何回勝って、負けているのか。今回の戦闘で、ケルン以外の何かを得るのか、失うのか。
ケータに向かって向けられた時計に、ケータは眼鏡を外して正面から向き合った。
「隣のお友達は、避難した方が良いんじゃないですか?」
「わかった。離れて見てる」
ケータから眼鏡を預かり、二人から離れて様子を見守った。クリーガーになると、視力が回復する。戦うのに邪魔だし、眼鏡が無いのはちょうど良い。
何かあったときのために、すぐに涙を摂取できるように上着のポケット入っている小瓶の蓋を開けた。汐里の涙は毎朝貰って持ち歩いている。
「お前、何のために戦っているんだ?」
ケータは間合いをはかりながら、じりじりと移動した。会話をするのは相手の気を逸らすのに良い。相手は何度か戦っているから無駄かもしれないけど。
何か違和感がする。構えることもなく、直立したままの姿勢は戦う意思が感じられない。いや、攻撃する意思か。自分から動かずに、相手が動くのを待っているんだ。合気道でもやっているのかもしれない。
ケータの質問に、マスク男子は首を傾げた。自分が可愛いことを自覚していて、相手にどう見えるかわかっている奴の動作だ。汐里がよくやっている。
「もちろん、自分のためですよ? あ、僕はジュンって名前があるんで『お前』は止めてください」
「何を取り戻したいんだ」
「声、ですよ」
声。話しているんだから、声は出ている。マスクをしているから咽喉を痛めているのかと思っていたけど。だから、声が『そう』なんだと思っていたけど。
まさか。まさか、そんな理由で。




