第1章
紹介された先輩の彼氏は、同じ学校の人だった。
だからそれ以来、廊下ですれ違う度、挨拶や会釈をされるようになった。
周りの友達からは、その度に「今の、誰?」と訊ねられた。
私はそれに、その都度答えていた。
そんな、ある日のこと。
「あっ、あの人」
一緒に帰ろうと昇降口まで来ていた友達が、声を上げた。
見ると、そこには先輩の彼氏がいた。
彼もこちらに気付いたらしく、いつものように会釈をしてきたので、私はそれを返す。
それから、靴を履き替えに自分の下駄箱のところへと向かった。
「ねぇ、柚紀」
「なあに?」
「あの人、よく見ると結構イイ男だよね」
「えー、そうかな?普通だと思うけど」
「格好いいよ、案外。奪っちゃえば?」
「ばかな事言わないで」
「あはは!ま、柚紀はシュミ悪いもんねー」
「失礼な」
そんなことを話しながら、私たちは校舎から出る。
校舎を出るとすぐに校門が見えるような造りになっているので、さっきの彼がそこに立っていることは一目で分かった。
さようなら、と言って彼の前を通り過ぎようとした、その時。
不意に、私は腕を掴まれた。
「柚紀ちゃん」
「え…あ、はい」
「ちょっと、エエかな」
あまりに聞き慣れない関西弁を耳にして、私はしどろもどろになりながら、いいですよ、と答えた。
一緒に帰るつもりだった友達は、いつの間にかいなくなっていた。
どうやら私たちに気を遣ってくれたらしい。
三上融さん。
それが、彼の名前だった。
先輩と同い年だから、年は二つ上。
少し浅黒くて、いかにもスポーツマン、という感じの人。
全然、私のタイプじゃない。
私の好みはというと、色が白くて、控えめで、爽やかな人、だった。
言わば、三上さんとは正反対の人なのだ。
それでも私は、三上さんが嫌いではなかった。
むしろ、好感すら持っていた。
彼とは二つしか年が変わらないはずなのに、彼はひどく大人びて見えた。
そしてその大人っぽさの中に垣間見える、無邪気さ。
それが、彼の一番の魅力なのではないか、と思う。
彼は、自分の彼女である私の先輩ーー名前を河野桜といったーーのことを、いつも「サクちゃん」と呼んでいた。
たとえば、ほら、そういうところとか。




