第4章
あれからすぐ、私たちは空港へ向かい、日本を発った。
アメリカへはもちろん、海外に渡ったのもほぼ初めてで慣れないことも多かったけれど、二年もすれば慣れてしまった。
そして今日は、二年ぶりに日本へ帰る日。
今は、その飛行機の中。
私のすぐ隣では、私の愛しい人が寝息を立てて眠っている。
私はその寝顔をそっと覗き込む。
すると彼は不意に目を開けて、いかにも眠たそうな声で、何や、と呟いた。
「え…っと。寝顔が、可愛いなぁって」
「ああ、そう。俺の安眠妨害したんやから、どうなるか分かってるよな?」
「ごめんね、融。そういうつもりじゃなかったの。許して?」
「いや、許さん。でも、そやなあ…俺の言うこと聞いてくれたら、許したるわ」
「聞きます、絶対聞くから」
「あ、言うたで?俺の言うこと、ほんまに何でも聞いてくれんねんな?」
「まあ…私に、できることなら」
そう言って私が頷くと、彼は手荷物の鞄を、何やらごそごそと探り始めた。
それから小さな箱を取り出し、私に差し出してきた。
彼はいつの間にか真剣な面持ちに変わっており、真っすぐに私を見つめていた。
彼が何か大切な話をする時は、いつもそうだった。
それが、彼の癖なのだろう。
私は融の差し出した小箱を受け取り、彼に促されてそれを開ける。
「え…嘘。これって、まさか――」
「うん、たぶんそのまさか。ほんまは、日本に戻ってから渡すつもりやってんけど」
「これ、ほんとに貰っていいの?」
「当たり前やん。誰のために、わざわざそんな高いもん買うたったと思ってんねん」
「それは、まあ、そうだけど。それでも何か、申し訳ないよ」
「何でやねん。…あ、もしかして、いらんかった?もう、俺のこと嫌いなん?」
「そういうことじゃなくてさ」
こんなことしてくれるの、いつも融じゃん。
私からは、何もしてないのに。
そう言いかけて、私はその言葉を呑み込む。
こんなこと言ったって、仕方ない。
きっとまた、融は「そんなことない」って答えるだろうから。
だって彼は、優しい嘘つきだから。
だから私は、呑み込んだ言葉の代わりに、彼にお礼を言った。
すると彼は、ほんの少し照れ臭そうに笑う。




