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第3章
「…ん?」
「融は、ヒロト君って、憶えてる?」
「ああ、ヒロトか。憶えてるけど、ヒロトがどうかしたんか?」
「今年からね、私の勤めてる学校の生徒になったの、彼」
「…え?」
私にそう訊き返しながら、融はゆっくりとブレーキを踏んだ。
思わず私も、「え?」と訊き返してしまう。
信号が青になったので、私たちの乗ったモスグリーンの軽は、緩やかに発進する。
けれど融は車をすぐに路肩に寄せ、停車させた。
どうしたのだろうと思い彼のほうを見ると、彼はなぜか真剣な表情をしていた。
「あのさ、ユズ」
「…うん」
「ちょっと訊きたいんやけど、ユズ、ヒロトと付き合うてるんか?」
「え?何で、急にそんなこと――」
「エエやろ、何でも。で、どないやねん」
「どうって言われても、そんなの分かんない」
「は?何でやねん。自分の彼氏が誰かも分からんのか」
「私にも、いろいろあるの。…だいたい、融には関係ないじゃない」
「それが、関係あんねんなあ」
そう言って、融は私の手をそっと握った。
途端に、私は閉口してしまう。
どうしてこうも、私は彼に対して弱くなってしまうのだろう。
あの頃の感情が蘇ってくる、なんて、そんな子供染みた理由なんかじゃない。
だったら、なぜ?




