第3章
あの、懐かしい笑顔を添えて。
彼は、何一つ変わっていなかった。
十年前の、あの頃のまま。
そのことが、私は素直に嬉しかった。
「どうしたの、急に」
「何や、驚いてへんのか」
「そんなこと、ないけど」
「なぁ、ユズ。せっかくの再会で悪いねんけど、ちょっと頼まれてほしいんや」
彼はそう言って、真っすぐに私を見つめていた。
何の連絡もなしに彼がわざわざ私を訪ねてきたのは、きっと、この頼み事があったから。
必死なんだろうな、と思った。
どうしても、誰かの力が必要なのだろう、と。
たとえその「誰か」が、私であったとしても。
だから、私は頷いた。
彼の話を聞くよりも先に。
ほんまにエエんか、と彼は何度も訊ねてきたが、私はその度に頷いた。
「ほんまやねんな?」
「うん、ホント」
「そっか。ほんなら――」
――ちょっと、ついて来て。
彼が真剣な面持ちでそう言ったので、私は返答に困ってしまった。
ついて来て、って、今から?
こんな夜遅くに、彼は一体どこへ行くというのだろう。
そうは思っても、断るわけにはいかなかった。
私は仕方なく、彼の後について家を出た。
私の住むアパートの駐車場に、見慣れない車が停まっていた。
モスグリーンの、軽自動車。
おそらく彼が乗ってきたものなのだろうとは思うけれど、それにしては可愛すぎる、と思った。
もちろんその車は彼のものだったし、私はそれについては何も言わなかった。
私は助手席に、彼は運転席に、それぞれ乗り込む。
「どこ行くの?」
「どこや思う?」
「分かるわけないでしょ、そんなの」
「まぁまぁ、そない怒らんと」
彼はそう言って私を宥めたけれど、私は別に怒っているわけではない。
彼だって、そのくらいのことは分かっているはずだ。
それにしても、自分が今こうして彼と普通に話しているということが、不思議でならなかった。
驚きというよりはむしろ、懐かしいという気持ちのほうが大きかった。
彼の表情は終始穏やかではあったけれど、さっきから彼は何も話さない。
いくら懐かしいとはいえ、さすがにこのままでは気まずいので、私は思いつくままに言葉を繋いだ。
「あのさ、融」




