第3章
今でもまだ、融のことが好きだから?
そんな、まさか。
そうは思ったものの、それ以外に何も理由が思いつかなかった。
私はそっと、彼のことを盗み見る。
相変わらず浅黒い肌に、比較的長いまつ毛。
筋の通った鼻、細長くてきれいな指。
見れば見るほど懐かしく、彼が愛しく思えてくる。
「私、融が好き」
「は?」
言ってしまってから、私は我に返る。
何言ってるんだろう、私。
「融が好き」。
それは、紛れもない事実なのだけれど。
でも、だからって、それは今言うべきことではない。
当然のように、融はきょとんとした顔で、私のことを見つめている。
そんな彼の目を真っすぐに見ることができなくて、私は思わず視線を落としてしまう。
自分の膝頭をじっと見つめていると、不意に、私は名前を呼ばれた。
私は俯いたまま、はい、と返事をする。
「なぁ、ユズ。ちゃんと、こっち見い」
「…うん」
「うんって、返事ばっかりで全然こっち見てへんやろ」
「だってさ、何か――」
「だっても何もないねん。とりあえず、俺のほう向いて。ちゃんと、俺の目見て」
私は仕方なく、一瞬だけ、融のほうを見た。
でもその一瞬を、彼は逃さなかった。
瞬時に私のことを抱き寄せ、頬にそっと、優しくキスをした。
私の心臓は、緊張も手伝って、どんどん拍動の速度を増していく。
この鼓動が、彼に届いてほしいような、ほしくないような。
そんな曖昧な気持ちを抱きながら、私は彼の腕に包まれていた。
香水と汗の混じった、懐かしい匂い。
私はこれから、どうすればいい?
そんなことを思っても、きっと、もう遅い。
一度想いを口にしてしまったら、もう二度と後戻りはできないのだから。




