第1章
三上さんを見てみると、彼はなぜだか浮かない表情をして俯いていた。
私は思わず「どうしたんですか」と訊ねてしまう。
三上さんは、一瞬驚いた様子をして見せたけれど、すぐに答えてくれた。
「…あんな、柚紀ちゃん」
「はい」
「俺、ヒロトとの約束破って、嘘つきにならなあかんねん」
「え?それ、どういう意味ですか?」
「俺な、もうすぐしたらアメリカへ留学に行くんや。卒業も、向こうでする」
「じゃあ、もうここには――」
「そうやねん。俺、ずっと、ここにおる言うてもたのに」
「…それくらい、大丈夫ですよ。ヒロト君だって、そのくらい理解できますよ」
「せやけど、俺は、約束破ることになんねんで。嘘つきになんねんで」
「じゃあ、今度会ったときに、ちゃんと説明すればいいじゃないですか」
私がそう言うと、彼は「せやな、分かった」と呟いて、小さく頷いた。
こんなに弱気な三上さんを、私は初めて見た。
きっとそれだけ、ヒロト君のことを可愛がっているのだと思う。
それからというもの、三上さんは毎日のように、この公園を訪れた。
にも拘らず、あれ以来ヒロト君とは一度も会えていない。
最後に会った日から一週間が経ち、三上さんも諦めかけていた、そんなある日。
「…トール!ユズキ!!」
もはや懐かしく思えてしまうようになった、ヒロト君の声が聞こえてきた。
彼はやはりおぼつかない足取りで懸命に走りながら、「トール、ユズキ」と、私たちの名前を何度も叫んでいた。
「トール、ユズキ」
「何や、おまえ。そんな急いで、どないしたんや」
「あのね。ぼく、言わなきゃいけないことがあるんだ」




