第1章
「ごめんね」。
そう一言だけ呟いて、彼女はにっこり微笑んだ。
右の頬だけに、小さなエクボを作って。
こんな人が、こんなに愛らしい人が、どうして幸せになれないのだろう。
神様は、いつだって意地悪だ。
けれど、もし香月先輩が三上さんの彼女だったら。
もし、初めからそうだったら、私は三上さんを好きになっていなかっただろうか。
答えは、おそらくノーだ。
三上さんは、三上融以外の何者でもないのだから。
つまり結局、私のこの密かな恋は、報われることがないのだ。
そう考えると、何だか急に切なくなった。
「あれ、もしかして」
「え?」
「ああ、やっぱりそうやった。後ろ姿やと分かりにくかったけど」
不意に後ろから声をかけられたので、振り返ってみると、そこには三上さんが立っていた。
彼の話す関西弁が、なぜだかひどく懐かしく感じられた。
彼の言葉は、耳に心地良く流れ込んでくる。
声もいい。
そこがまた、彼に惹かれる理由の一つでもあるような気がした。
「何や。彩と柚紀ちゃん、仲エエんか?」
「え?うん、まあ。…だよね、柚紀」
「はい」
「ええ、ほんまに?柚紀ちゃん、言わされたんちゃうんか」
「いえ、違います、本当に。私、先輩のこと好きですし」
「ふーん、そうなんや。二人で、こんな遅うまで何してたん?」
「ちょっとお話、です。相談したりとか」
「相談?柚紀ちゃんが?」
「えっと、それは…」
「あ、ごめん。別に、内容まで聞かんから。でもまあ、俺にも時々は相談してな」
「え…三上さんに、ですか?」
「いや別に、強制と違うから。嫌なら、無理にせんでも」
「じゃあいつか、また何かの相談しますね」
「ん、ああ…いつか、な」
そう言った三上さんは、少し寂しそうな表情をしていた。
今、三上さんが言ったことは、本気?それとも、冗談?




