第7話
次の日の朝。
プリメイシアは、焼ける肉の香ばしい匂いに誘われて目を覚ました。
寝転がったまま、左を向く。
一緒に寝ていたはずのマルークの姿がない。
「……ん?」
毛布を払いのけて体を起こす。
長剣を手に取り、馬車から降りると、少し離れた場所で細い煙が上がっていた。
長剣を腰に差し、音もなくその方へ近づいていく。
すると、簡素な石を積み上げた即席の焼き台が見えた。
木の棒に刺した肉が火にさらされ、脂が音を立てて落ちている。
「おはよう、マルーク」
声をかけると、マルークが振り向いた。
「おはようございます。今、肉に火を通しているので、もう少々お待ちを」
プリメイシアは、顔を洗うために川へ向かった。
(火種はどうしたんだろ……。まぁ、魔法があればなんとかなるのか? 便利だなぁ、魔法)
そんなことを考えながら戻ってくると、肉はすでに焼き上がっていた。
マルークは平たい石の上で、さらに手を加えている。
(そういえば、料理が得意とか言ってたっけ)
プリメイシアは立ったまま、その様子を眺めていた。
マルークは硬いパンを縦に半分に切り開き、内側を火で軽くあぶる。
そこに、焼いた肉の脂だけを滴らせた。
昨日村からもらったチーズをのせ、もう一度炙る。
とろけたチーズの上に、塩漬けの野草を散らし、最後に肉を一口大に刻んで並べていく。
どうやら完成らしい。
作業に夢中だったマルークは、プリメイシアがすぐ目の前まで忍び寄っていることに気づいていなかった。
「料理、すげーじゃん」
「はっ!?」
突然の至近距離にマルークは驚いたが、
「かっ、完成しましたので、どうぞっ」
肉挟みパンを差し出した。
「昨日の鎧猪の肉を使ってみました。脂も旨味も強いので、朝食にぴったりかと……」
「ありがとよ」
プリメイシアは受け取って、一口かじる。
パンの香ばしさ、肉の質感、脂の甘み、野草の塩気が順番に口の中に広がっていく。
簡素ながら、小さな工夫が美味しさを何倍にもしている。
「うん、旨いな! ありがとう、マルーク!」
「お、お粗末さまでした……」
マルークは照れくさそうに頭を掻き、プリメイシアが食べるのを見届けてから、昨日もらった干し肉を小さく切り取って口に咥えた。
プリメイシアはそれを見て首を傾げる。
「どうした、お前は食わないのか?」
マルークが不思議そうに顔を上げる。
「僕は、狩りをしなかったので……」
プリメイシアはマルークの肩を叩いた。
「バカ。昨日お前は畑仕事をやっただろ。だから食え」
そう言って、パンを無理やりマルークの口に押し込んだ。
「うぐぐぐっ!?」
最初は抵抗していたマルークだったが、諦めて大きく頬張る。
一口かみちぎり、咀嚼する。
「……どうだ、旨いだろ? お前が作ったんだぞ」
「……強引です」
「はっはっは! これからもっと俺に付き合ってもらうからな! 楽しみにしておけよ」
マルークはため息をつきながらも、もう一つパンを作り始めた。
それを半分に切って、プリメイシアに渡す。
彼女はそれをあっという間に平らげた。




