第41話
プリメイシアが復活してから一週間が経った。
まだ左肩の奥に鈍い痛みは残っているが、日常生活を送る分には全く支障がなくなっていた。
鍬を振るうのも、泰羊の背を叩くのも、もう普通にできる。
それだけで、彼女は十分に満足していた。
村は、大きな変化を遂げていた。
拠点の周囲にはしっかりとした土の外壁が巡らされ、テントの数も八張りに増えていた。
これならある程度の領民を受け入れても大丈夫だろう。
プリメイシアはそう踏んでいた。
芋の収穫も順調で、岩熊がいなくなった影響か、小型の魔物が増えたおかげで狩りも安定してきていた。
もうそろそろ「村」と呼んでもいいんじゃないか、という話になり、モーセムたちと話し合った結果、プリメイシアの髪の色にちなんで「暁の村」と決まった。
その日は盛大なお祝いになった。
宴の席でモーセムがプリメイシアの隣に並び、杯を傾けた。
「なぁ、プリメイシア。村の名前は決まったが……一つだけ、考えておいた方がいいことがある」
「ん?」
「村の教義じゃよ。一つだけでいい。それが皆の指針となる。お前らは……何を掲げる?」
プリメイシアは杯を一度置くと、焚き火を見つめた。
「教義なぁ……自由と、責任だな」
「ほう」
「ここに来た者は、自由に生きていい。その自由の分だけ責任を負う。俺も、お前らも、魔族も、人間も……同じだ。それが俺の、暁の村の教義だ」
モーセムは杯を彼女に向かって掲げた。
「良き答えじゃ。……わしの村の住人たちにも広めておこう!」
その言葉を合図にしたかのように、村人たちの歌が始まった。
プリメイシアは杯を傾けながら、思い出したようにモーセムへ話題を振った。
「そういえば、あんたの村の名前、まだ聞いたことなかったな」
「わしのテントに鳥の紋章があるじゃろ。あれは太陽に吠える鳥なんじゃ。対外的には『日の村』と呼んでおる」
「……日の村って……暁と大して変わんねーじゃねーか」
「そうかのう」
「謀ったな、じいさん」
「どうじゃろうのう」
モーセムは杯を軽く掲げて、悪びれもせずに笑った。
変わったのは見た目や名前だけじゃない。
双子のファイとラックが、泰羊の世話を積極的に始めるようになったのだ。
マルークから聞いたところによると、プリメイシアが動けなかったあの三日間の間。
遊びに来ていた村の子供たちと一緒に泰羊の散歩をしていたらしい。
それがきっかけで餌をやり始め、今ではマルークから綱を奪ってでも出かけようとするほどだという。
(積極的なのは良いことだ)
そして暁の村には、毎日交代で、あちらの村から人が派遣されることになった。
バスチールは「戦える住民が増えるまで」と言ったらしいが、モーセムは「魔物狩りに比べれば楽じゃからよい」と一蹴した。
恐らく本心だろう。
なんだかんだで抜け目のない爺さんである。




