第38話
「バスチールさん。ご飯できましたが、食べられそうですか?」
マルークの声が外から聞こえてきた。
バスチールは立ち上がり、布をめくって外へ出ていった。
外から、少年と彼女の会話が漏れ聞こえる。
「プリメイシアは大丈夫ですか?」
「意識ははっきりしているね。飯も食えると思う。マルークは他の皆の分の食事を優先して。よろしく頼むね」
「いえ、ありがとうございます。頑張ります!」
そしてバスチールが中に戻ってきた。
手には、先日プリッツォが運んできたばかりの木製の食器が乗っている。
湯気が立ち昇り、匂いが広がった。
プリメイシアは右手だけで体を起こした。
そして右手をバスチールに差し出した。
彼女はベッドの端に腰を下ろした。
「だめー。三日は腕を使わせないよー」
そう言いながら、木の匙で器の中をかき混ぜる。
中身はスープだった。
煮込んだ肉と、恐らく野菜、そしてパンを細かく砕いたものが浮いている。
食べやすいようマルークが気を使ってくれたのだろう。
「プリメイシアはちょっと頑張りすぎ。温かいもの食べて、寝て元気になったらまたちょっとずつ頑張ろう。ねっ」
バスチールは匙を口元まで運んできた。
プリメイシアは大人しくそれを受け入れた。
見た目以上に味気なかった。
「……マルークに言っておけ。病人じゃないから、塩分は多めにしろってな」
「運動もしない人には必要なーし」
食事を終えると、バスチールは空になった食器を手に立ち上がった。
「寝てなよ。村から助っ人もいっぱい来てくれたから、こっちは大丈夫。安心して」
バスチールがそう言うのなら、きっと大丈夫なのだろう。
プリメイシアはベッドに横になり目を閉じた。
プリメイシアは、人の気配を感じて目を覚ました。
天井布はまだ明るく、昼下がりの柔らかな光が淡く差し込んでいる。
それほど長い時間は眠っていなかったようだ。
目を向けると、入り口近くに二つの小さな人影があった。
「……入っていいぞ」
声をかけると、先頭にファイ、その背中にぴったりと寄り添うようにラックが、中に入ってきた。
二人は入り口付近で足を止め、それ以上近づこうとはしない。
プリメイシアは上半身を起こした。
「どうした? 外の方が、居心地が悪いか?」
ファイは弟の手を握り、頭を下げた。
「あの……助けてくれて、ありがとうございます」
その隣で、ラックも兄に倣うように頭を下げる。
「助けるさ。お前らはもう俺の領民だからな。それに……弟を守ろうとして庇った兄、兄のために勇気を振り絞った弟。助けたのは俺だけじゃない。お前らも十分に頑張った。無事で良かった」
兄弟は顔を上げると、見合わせ、ほんの少しだけ表情を和らげた。
そして再び揃って頭を下げ、出て行こうとする。
そのとき、ラックが小さく振り返り、プリメイシアに向かって恥ずかしそうに手を振った。
二人が出ていった。
「……一歩前進だな」
彼女は再び横になり、目を閉じた。




