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追放された2メートル令嬢 ~魔法少年と新天地で最強領主目指します~  作者: 川合 佑樹


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第37話

 プリメイシアが目を覚ますと、そこはテントの中だった。


 薄い光が天井の布を淡く透かし、昼間であることが分かる。

(帰ってきたんだな)


 生きている。

 それだけで十分だった。


 ここにいるということは、みんなも無事だということ。

 左腕を上げようとした瞬間、肩の奥から痛みが走った。


「っ!」

 動きを止める。


 その痛みとともに、昨日の記憶が遅れて鮮やかに蘇った。

 岩熊の巨体。


 森の奥で響いた咆哮。

 マントを咥えたまま、去っていく後ろ姿。


「……完敗かぁ」

 悲しくも、悔しくもなかった。


 今まで味わったことのない安心にも似た感覚だった。

 今までは、攻めるだけだった。


 敵を前にして、ただ突き進むだけでよかった。

 けれど今は違う。


 守るものができた。

 領地があり、村があり、マルークがいて、バスチールがいて、双子のファイとラックがいる。


 彼らを守る立場になった途端、攻め一辺倒の戦い方が通用しなくなっていた。

「人だけじゃない、実力も足りていないな。これが領主というものか」


 左肩にそっと右手を添える。

 この痛みは、ただの傷じゃない。


 自分がまだ「一人」で戦おうとしていたことへの、戒めだった。



 プリメイシアが起きた気配を感じ取ったのか、外から声がした。

「プリメイシア、起きた? 入るよー」


 バスチールが布をめくって中に入ってきた。

「大丈夫……ね。うん、ちゃんと生きた顔してる」


 プリメイシアのもとまで歩いてくる。

 プリメイシアはベッドに横たわったまま、小さく笑った。


 体の反動で左肩が痛む。

「痛ててて……なんだよ、生きた顔って」


 バスチールが横に腰を下ろした。

 プリメイシアの頭を上げさせないよう、気遣った位置だ。


「おはよ。聞きたいこと、いっぱいあるでしょ? 何でも聞いて」


 プリメイシアは天井の布を見つめたまま、尋ねた。

「みんなは無事か?」


「それよね。全員無事だったわよ。ちょっとした擦り傷くらいはあったけどね。マルークもファイも、あんたが救ったのよ」


「……そうか。よかった。拠点は大丈夫だったか? 火の手が上がっていたみたいだが」


「それも大丈夫。双子のテントに火矢を放たれたけど陽動だったみたいだわ。すぐに逃げて怪我はなし。塀が効いたのかな? 火は移らなかったわ」


「野盗と、岩熊は?」

「野盗は懸賞金出てるか分かんないけど討伐証明になりそうなものだけ取っておいたわ。一人騎士がいたのね。剣に紋が入っていたわ。岩熊はどっか行っちゃった。戦力差がありすぎるみたいだから捜索もしてないわ。今度騎士団が来たときに討伐依頼を出してもいいけど、村にも行ってないみたいだから……襲ってきたときのことを考えて、対策した方がいいかもね」


「……それは大丈夫だ。きっとあいつはもう来ない」

「そう……あなたがそう言うなら、そうなのかもね」


「ただの勘だけどな」

 バスチールは少し間を置いて、プリメイシアに顔を寄せた。


「それで、もう聞きたいことはない?」

「……ありがとう。大丈夫だ」


「……本当に?」

「……何かあるのか?」


 バスチールがわざとらしく頬を膨らませ、顔を覗き込んだ。

「……私のこと労うとかないわけぇ?」


 プリメイシアは一瞬、目を丸くしたあと、思わず笑い声を漏らした。

「……はははっ。やっと装備分の働きをしたな」


「もー!」

 バスチールがプリメイシアの腕を叩こうとして、手を止めた。


 いつもの明るい空気が戻ってくる。

 プリメイシアは肩を庇いながらも、胸の奥が少しだけ軽くなるのを感じていた。


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