第32話
プリメイシアは村まで戻る。
村長に、岩砂の地帯に魔物の気配はなかったことを簡単に伝えた。
「そうか。まあ、岩熊の臭いがまだ残っとるんじゃろうな。あいつらも獣じゃからのぉ。圧倒的強者には近づこうともせんのじゃろう」
モーセムはその後、彼女の新しいマントをもう一度褒めてくれた。
村を出たプリメイシアは、泰羊のメメルとメリムを連れて拠点へと足を向けた。
帰りながら、
(バスチールに自慢してやろう)
とマントを指先で触りにやけていた。
しかし、拠点の方角を見た瞬間、その表情が凍りついた。
黒い煙が、空に昇っていた。
料理の煙ではない。
禍々しい黒さだった。
「っ……!」
プリメイシアは迷いを挟まず結論を下した。
泰羊たちなら勝手に帰れる。
槍だけを肩に担ぎ、泰羊の縄を放して全速力で地を蹴った。
拠点に近づくにつれ、煙はますます大きくなっていく。
(幸い、上がっているのは一本だけか……!)
足をさらに速めたそのとき、金属がぶつかり合う音が聞こえてきた。
プリメイシアは音のする方角へ向かった。
そこにあったのは、予想通り戦闘の光景だった。
バスチールが両手に短剣を握り、皮の鎧を着た男たちと切り結んでいた。
周囲にはすでに三人の男が倒れており、喉や心臓を突かれ、息絶えている。
バスチールは残る三人を同時に相手取り、華麗に剣を舞わせていた。
一人の男がバスチールの死角から背後へ回り込もうとしていた。
プリメイシアは無言で腰の長剣を引き抜き、力いっぱい投擲した。
剣は回転しながら一直線に飛び、男の背中に深々と突き刺さった。
「ぐあっ!」
男は倒れた。
プリメイシアは間合いを詰めて、柄を強く押し込んでとどめを刺す。
ほぼ同時、バスチールが残りの二人を鮮やかに切り伏せ、それぞれにとどめを刺した。
気づけば決着はついていた。
「バスチール、残敵は!?」
「一人逃げた!」
「マルークと双子は!?」
少し離れた場所からマルークの声が飛んできた。
「プリメイシア! ファイが!」
その横で、ラックが地面に縮こまっていた。
プリメイシアは事態を一目で読み取った。
「連れていかれたのか!? どっちに行った!」
マルークが横に首を振る。
「お兄ちゃんは……僕を庇って!」
ラックが、初めて口を開いた。
彼女は指示を飛ばした。
「バスチールは川上へ! 俺は川下に行く! 見つけたらすぐに合図を!」
「了解!」
二人は全速力で散開した。




