第31話
プリメイシアは村へとたどり着いた。
村長のテントに入ると、モーセムはいつもの炉のそばに座っていた。
プリメイシアが胡椒、山椒、乾燥ハーブの入った袋を差し出すと、村長は中を覗き込んだ。
「ほう、いい匂いじゃのう。村の連中も喜ぶわい」
「少しでも役に立てればと思ってな」
「律儀な奴じゃのう」
「あっても困んねーんだから、いいだろ?」
「それはそうじゃ。ありがたく受け取っておくよ」
「それで今度狩ってきた魔物で料理でも作ってくれよ」
モーセムは袋を大事そうに棚へしまった。
「分かった分かった。そういえば、わしもお前に渡したいものがある。ちょっと待っとれ」
そう言い残して外へ消え、ほどなくして黒いふさふさとした生地を抱えて戻ってきた。
プリメイシアが受け取り、広げると、それは見事なマントだった。
厚く、柔らかく光沢を帯びた黒い毛皮。
「これってあの……」
「岩熊の毛皮じゃ。ようやく鞣し終わり、マントにすることができたんじゃ。魔力が通っていなくても、相当頑丈に仕上がっとる。使ってやってくれ」
「おおおお! すげえええ!」
プリメイシアはマントを羽織った。
重い。
背中全体を包み込むような暖かさと、野性の力強さが伝わってくる。
「ありがとう! 助かるよ! カッコいいなぁ!」
プリメイシアはマントの端を軽く翻した。
「うむ、よく似合っておるのう。黒衣の英雄とはな」
「ちょっと散策してくるよ」
彼女はマントを翻しながら外に出た。
下ろしたての服と一緒で、マント一つで彼女の気持ちは高揚していた。
草原を進む足取りが、自然と軽くなった。
「よーし! いっぱい狩るぞー!」
岩熊の親子と遭遇した岩砂の地帯まで来ても、魔物の気配はなかった。
砂蜥蜴の痕跡すら見当たらない。
どれだけ目を凝らしても、耳を澄ましても、ただ風が砂を運ぶ音だけが響く。
「……こいつのせいか?」
プリメイシアはマントの毛皮を指で摘まんだ。
(俺には分からないが岩熊の臭いがまだ強く残っているのだろうな)
魔物たちにとっては「この辺りは岩熊の縄張りだ」と警告するようなものなのかもしれない。
「いや、マルークがいつも敵を察知してくれていたからな。その影響もあるんだろう。今日は大人しく帰るか」
踵を返し、彼女は村へと戻ることにした。
しかし――
遠く彼女の背後、山の岩陰のわずかな隙間。
一匹の魔物だけが、じっとその姿を見つめていた。




