第3話
そして村にたどり着いた。
元いた場所が分からないほどには離れてしまっていたが、そこまで歩いても変わらぬ草原だった。
村はキャンプ地のように見えた。
そこにはちゃんと人が暮らしていた。
色褪せた茶色の布製の丸いテントが十数張り、不規則に立ち並んでいる。
その間を、白い上着に茶色のズボンやスカートをはいた男性や女性が行き交っていた。
焚き火のそばで鍋をかき混ぜる女性、
薪や布を担いで運ぶ男性、
洗濯物を干す母親と子供、
ごく普通の生活の光景が広がっている。
プリメイシアに気づいた何人かが、作業の手を少し止めてこちらを見た。
驚きと興味が混じった周囲の表情が一瞬変わり、好奇の気配が漂ったが、誰も声をかけず、すぐに自分の仕事に戻っていく。
「ここが村です。村長の家はこちらになります」
村に入ると、少年はやっと口を開いた。
「ああ、案内ありがとう」
そしてたどり着いたのは他と同じ見た目のテントだった。
唯一違うのは、入口に何やら鳥の紋章が描かれていることだけ。
村長を示すものだろう。
中に入るとそこには、予想以上に整然とした空間が広がっていた。
円形のテント内は、外の粗末な印象とは裏腹に、柔らかな薄明かりに包まれていた。
中央に据えられた石囲いの炉では、かすかな煙が立ち上っていた。
天井の丸い開口部から細い光の柱が差し込み、床に淡い斑模様を描いていた。
床は厚手の敷物と粗い織物で覆われ、ところどころに色褪せた赤と青のクッションが並んでいる。
壁沿いには木製の低い棚がぐるりと巡らされ、素焼きの壺、鉄の鍋、折り畳まれた毛皮、狩猟道具などがきちんと収められていた。
武器は見当たらないが、代わりに短槍が一本、入口近くの支柱に立てかけられている。
村長らしき男は、炉の向こう側。
客人を迎える上座にあたる位置に腰を下ろしていた。
五十代半ばと思しき、日に焼けた浅黒い肌。
灰色の短髪に、鋭い目つき。
布の服の上から毛織りのベストを羽織り、左胸にさりげなく鳥の紋章が刺繍されている。
入口の絵と同じものだ。
男は顔を上げ、マルークとプリメイシアを交互に見た。
「……外の人間か。なぜ今更ここに?」
炉の火が彼の顔に橙色の影を落とし、この村そのものを象徴するような、静かで重みのある佇まいだった。
プリメイシアは無意識に背筋を伸ばした。
その声にどこか父を感じた。
プリメイシアは物怖じせずはっきりと答えた。
「ここは知っての通り、ヴァルヘインの土地だ。俺は娘のプリメイシア。この土地を開拓するためにやってきた。そちらは?」
村長は一拍おいて答えた。
「ああ知っているとも。ヴァルヘインの娘か。なるほどな。わしはモーセム。この村の村長をやっている」
父のことを知っている、ということは領民であるという自覚があるということだろうか?
プリメイシアは、「であればなぜ父はこのことを事前に教えてくれなかったのだろうか」という疑問が頭に浮かんだ。
「そうか、知っているならば結構」
「何も協力はせんよ」
明らかな拒絶だった。
(領民としての義務を果たさない……そういうことか?)




