第20話
川の冷たい水面に、プリメイシアは思い切り飛び込んだ。
全身を沈め、頭のてっぺんまで冷水に包まれる。
熱くなった頬も、ざわついていた胸も、引き締まる。
水に沈みながら頭も冷静になっていく。
(これは恋愛感情なんかではない。今はそのようなことに浮かれている時間も余裕もないのだ。マルークは弟のようなものだ。さっきのはただ距離が近くなっただけだ……)
息を吐きながら水底を蹴り、勢いよく顔を出すと、草原の風が濡れた肌にまとわりついた。
「ふう……」
彼女は濡れた髪を後ろに掻き上げ、作業着を濡らしたまま拠点へと戻った。
「プリメイシア! 何やってんの!?」
テントの前で待っていたバスチールが、急ぎ足で近寄ってきた。
慌てた様子でプリメイシアの腕を掴む。
「全身びしょ濡れじゃん! 風邪ひいちゃうよ! ほら、早くテント入って!」
「大丈夫だ。すぐ乾く」
「ダメダメ、絶対にダメ!」
バスチールは返事など聞かず、強引にテントの中へ引っ張り込んだ。
そしてプリメイシアの着替えを手伝った。
「……さっきはごめんね。弄っちゃって。久々に会えて浮かれてたんだと思う」
プリメイシアは作業着を脱ぎ捨て、乾いた布で体を拭いた。
「気にするな。俺もまだここに来て日が浅い。混乱してることも多いんだ」
「うん……私も絶賛混乱中。正直、もうちょっと潤沢な資金で暴れまわってると思ってたから」
バスチールはプリメイシアの頭に乾いた布を優しく当て、髪を拭き始めた。
指先の動きは昔から世話を焼いてきたかのようだった。
「追放された身だからな。父上とてこれ以上は波風が立つと思ったのだろう」
「ひどい話だよね。そもそも王子には会ったことないよね?」
「入学式の時、二つの意味で鼻を折ったかもしれん。偶然だったがな」
「そうなんだ」
「それも最近まで忘れていた」
「殺しとけばよかったのに」
「……確かに」
その日の午後、三人はバスチール用のテントを作ることにした。
「私は……自分のテントが欲しいなー」
バスチールがマルークをにこにこと見ながら言った。
気遣いなのか、ただのわがままなのか、よくわからない笑顔だった。
「わかった。村に行って素材をもらってくるか。ちょうどいいな、お前もついてこいバスチール。顔合わせするぞ」
プリメイシアが頷くと、マルークがすぐに泰羊の縄を手に取った。




