第16話
拠点が発展してからというもの、食料への心配が一旦の安心に変わっていた。
プリメイシアは、この土地を本格的な「村」へと変えていくために、様々な施策を試すことにした。
まずは農地開拓だ。
ただ、どれだけ掘っても水がなければ意味がない。
マルークに尋ねてみると、水の魔法を使える者は村に一人しかいないという。
「どうりで、川まで水を取りに来ている気配がないわけか」
と、彼女は納得した。
であれば、川から引くしかない。
結論に至るまで時間はかからなかった。
プリメイシアは馬車の板材を作業台で加工し、簡易のスコップを二つ作り上げた。
川に向かおうと足を踏み出したそのとき、マルークに呼び止められた。
「なにするんですか?」
「川から水を引いてこようと思って」
「僕に任せてください!」
マルークは畑の方へ一目散に向かっていった。
プリメイシアはその後ろを追った。
少年は光球を展開すると、それを薄く伸ばして地面に埋め込んだ。
前方へ滑らせるように動かすと、土がみるみる削れ、水路として十分な幅と深さの溝ができ上がっていく。
「行ってきますね!」
マルークはそう言い残し、川上の方へ走っていった。
「俺がスコップを作る前に言ってくれりゃあなぁ。まぁなんかには使えるか」
その場にスコップを突き刺した。
ほどなくして、少年が慌てた様子で戻ってくる。
「プリメイシアさーん! 避けてくださーい!」
様子がおかしい。
「どうした?」
と声をかけようとしたその瞬間、水路に水が流れ込んでいるのが目に入った。
そして、
バシャアアアアン!
行き止まりは、ちょうどプリメイシアの目の前だった。
大量の水が勢いよく噴き上がり、彼女の頭から足先までを瞬く間に全身を水に包み込んだ。
「あー……そういうこと」
プリメイシアは呆然とつぶやいた。
マルークは息を切らしながら溝の行き止まりまで辿り着くと、光球を再展開して水の流れを斜めに逸らした。
「すみません! 行ってきます!」
川下に向かって走り去っていく。
残されたプリメイシアは、滴る水を袖で拭いた。
「……一旦着替えるか」
彼女はぐっしょり濡れた作業着を脱ぎ、軽く絞り、テントへと歩き出した。
背後では、ようやく水路に水が安定して流れ始め、畑の端で小さな水溜まりを作り始めていた。
(……まあ、結果オーライだな)
濡れた髪を掻き上げながら、プリメイシアは小さく笑った。




