第14話
岩熊の死骸は、思ったよりずっと簡単に運ぶことができた。
功労者はマルーク。
その魔法だった。
死んだ魔物は体表面に滞留していた魔力が抜け、触れることができるようになるらしい。
少年は光の球体を薄く伸ばし、岩熊の巨体の下に滑り込ませると、目線の高さまで軽々と浮かび上がらせた。
「重くないのか?」
プリメイシアが尋ねると、
「重さは特に感じませんね。この光球は『そこに位置している』という感覚だけは伝わるんですが、持ち上げている実感はほとんどないんです」
と答えた。
(何とも都合のいい魔法だな……)
それなら荷物運びもマルーク一人で十分ではないかと思い、つい口に出してみる。
「それなら泰羊はいらなかったんじゃないか?」
「彼らは家族みたいなものですし……僕たちも、彼らも一緒にいるのを楽しんでいるんです。その楽しみを奪いたくないんですよ」
「そういうものか」
こうして二人は、問題なく村まで帰還することができた。
村は一瞬、騒然となった。
岩熊が襲ってきたのかと勘違いしたのか、武器を構え、手を振り上げている者たちがいた。
その誤解は、プリメイシアとマルークの姿を見て、たちまち凱旋の賛辞へと変わった。
村人たちの喜びの叫びが、重なり合い、草原に響き渡る。
「おおおおっ!」
「やったぞ!」
「英雄だ!」
すぐに数人の村人たちがどっと押し寄せてきて、マルークを囲むようにして岩熊ごとどこかへ連れていった。
恐らく解体作業を始めるのだろう。
一人残されたプリメイシアの元へ、モーセムが近づいてきた。
「やったか……。あれほどのデカブツを単身で挑むとはな……。それも倒してくるなど、誰が想像できたか」
「意外とやれたよ。ちょっと疲れたがな」
「ちょっと疲れた、か。まぁいい。それでアレはどうする?」
モーセムは岩熊の巨体を顎で示した。
「俺は旨い飯が食えたらそれでいいくらいに思っていたが、せっかくだから毛皮くらいはもらっとこうかな」
「おいおい、毛皮だけじゃなく爪や内臓や魔核はどうするんじゃ!? 武器や魔法道具の触媒にだって使えるんじゃぞ!? 商人に売ればそれなりにまとまった金にもなる!」
モーセムが詰め寄ってきた。
おそらくこちらでは扱いきれない、という意味なのだろう。
「わかったよ。じゃあ肉は皆で分けよう。加工すれば日持ちはするだろう? こっちはその用意がない。それを頼むよ。あとはどうするもんなんだ?」
「……よい。こちらでいい感じにしておく」
「悪いな。ありがとう」
(金のことなどどうでもよいのだろうが、ちょっと人が良すぎる気もするな)




