第12話
帰り道を少し進んだところで、マルークが突然足を止めた。
「……プリメイシアさん」
そして前方を指差した。
「何かいます。さっきより、ずっと大きな魔力反応が……」
プリメイシアは槍を肩から下ろした。
「岩熊か?」
「恐らく……でも、少し小さい個体かもしれません。大きな砂蜥蜴かも……」
「岩熊だと思って進むぞ。何かあったらお前は逃げろ」
二人は警戒を強めながら歩き始めた。
さっきの砂蜥蜴の残骸があるはずの場所まで戻ってきたときだった。
腹の底に響くような唸り声が聞こえた。
プリメイシアは声のする方へ全感覚を集中させた。
そこにあったのは、想像をはるかに超える巨体だった。
灰褐色の毛並み。
肩の高さだけでプリメイシアの頭一つ分はあり、全長は五メートル近く。
四肢は太い岩柱のようで、爪は黒く鋭く湾曲している。
岩熊という名はその体を見ただけで分かった。
そいつは、さっき倒した砂蜥蜴の残骸に顔を突っ込み、肉と骨を貪っていた。
血と肉片が口の周りに付着し、赤黒い滴が砂に落ちる。
岩熊は顔を上げ、赤く濁った双眸を二人に向けた。
マルークの息が止まった。
「プリメイシアさん……あれが……」
「言わなくても分かってるよ。下がってろ。もう戦闘領域だ」
プリメイシアは槍を構えた。
(ちっ……放置したのが、まずかったか? いや、誘い出せたと喜んでおこう。この大きさならいける)
わずかな後悔と、もっと大きな闘志が同時に燃え上がった。
プリメイシアは岩熊に向かって間合いを詰めた。
岩熊は動かなかった。
敵を知らないのか、それとも頑強さからの余裕か。
ただ彼女を睨みつけ、微動だにしない。
「余裕ぶってんじゃねぇ!」
間合いに入った瞬間、槍を高く振りかぶり、左目を狙って全力で叩きつけるように振り下ろした。
ギャアアアン!
到底頭骨を掠めたとは思えない、激突音が響き渡った。
衝撃が柄を通じて腕全体にまで伝わり、骨まで震わせる。
弾かれこそしなかったが、内心で舌打ちを飲み込んだ。
(想像より硬かったな……この初撃が躱されなくて良かった……!)
素早く槍を引き、構え直す。
岩熊は左目の裂傷から真っ赤な血を噴き出し、
「ギュオオオオオ! ギュオオオオ!」
その場で咆哮を上げ、のたうち回った。
「よし、攻撃は通る。もう片方ももらうぞ!」
プリメイシアが一歩踏み出した、その刹那。
「待ってください!」
マルークが後ろから声を上げた。
プリメイシアは足を止め、後ろを振り向かずに短く尋ねた。
「なんだ!? 今がチャンスだぞ!」
「もう一体、魔力反応があります! それも……もっと大きな! こっちに近づいてきています!」
「なんだと!?」
その正体は、すぐに目の前に現れた。
先ほどの岩熊は、痛みで叫んでいたのではなかった。
助けを呼んでいたのだ。
岩熊の後ろから、影が走り寄る。
今戦闘していたのは子熊だったのだろう。
その二倍はあろうかという、圧倒的な巨体。
それが今傷ついた息子を無視し、敵であるプリメイシアに向かって猛然と距離を詰めてきた。
「ちぃっ! 二体は聞いてねぇぞ!」
彼女は槍を低く構えて迎え撃つ姿勢を取った。




