第10話
その日のうちに、プリメイシアは馬車の荷台で装備を整えていた。
作業着の上に、父から託された皮の軽装を身に着ける。
胸当てと肩当ては厚手の牛革を何重にも重ね、腹部は柔軟な鹿革で動きやすさを優先。
腕は肘までを覆うガントレット、腰には長剣を、背中には槍を固定するための革ベルトを締めた。
鉄のブーツはそのまま。
全体を覆う濃い茶色の皮は、土と同化するような色合いだ。
金属鎧よりはるかに軽く、十分な防御力を備えた、実戦装備。
「よし、しっくりくる」
重厚な金属鎧なら確かに守りは固い。
本来熊相手だけであればそうしただろう。
この広大な草原では、どれほどの戦闘が行われるか分からない。
土地勘がない以上、動きの遅さが命取りになる。
彼女はそれをよく知っていた。
これは戦争ではないのだ。
そしてマルークと二頭の泰羊たちと共に、村へと向かった。
「よろしいのですか?」
マルークが何度も声をかけてくる。
「気にするな。その代わり、討伐したら旨い熊料理を頼むぞ」
マルークの不安げな様子をよそに、プリメイシアはどこか余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。
岩熊がどれほどのものか。
一度、自分の目で確かめてみたいという気持ちが、胸の奥で燃えていた。
村に到着した。
プリメイシアは村の入り口で足を止めた。
中には入らず、外で待つ。
余計なことはせず、すぐに発つつもりだった。
マルークが小走りに村の中へ消え、ほどなくしてモーセムが慌ただしい足取りでやって来た。
「プリメイシアよ、岩熊を退治してくれるというのか?」
「ああ。その代わり、俺とマルークだけで行く。その間、メメルとメリムを頼めるか?」
「一人で!?」
モーセムが声を上げた。
マルークから聞いていた話では、岩熊はただの魔物ではない。
強大な魔力と鉄のような頑強さで、戦いに慣れた男たちが総出で挑んでも、死傷者が出るのが常だという。
それを一人でなどとうてい信じがたい。
自分が依頼する立場であっても驚くだろう。
プリメイシアは右の口角だけを軽く上げた。
「安心しろ。勝算がなければ行かねーよ。戦うなら戦うで、どんなもんか一回見ておきたいってだけだ。今日、おっぱじめるとは限らねぇ。襲ってきたら別だがな。ま、モーセムは何があっても気にすんな。俺の責任だ」
「……そうか。我々の援護はいらないのだな? であれば……せめて泰羊たちは、わしらが責任を持って面倒を見させてくれ。……生きて帰ってくることを祈っておくぞ。あの子たちは賢い。顔を見せぬと寂しがるからの」
「あいよ。宴の準備でもして待ってくれ」
プリメイシアは荷台の槍の固定を解くと肩に担ぎ、歩き出した。
その後ろを、マルークが追いかける。
すると、二人の後ろから村の男たちのかけ声が響いた。
「「「頑張れよー!」」」
英雄を送り出すような力強い声だった。
プリメイシアは振り返らずに片手を上げ、軽く振った。




