大型犬の飼い主を救え 2
パトカーはサイレンを鳴らさず、現場へ向かっていた。
運転席の田口が前を見たまま尋ねる。
「現場まで、あと十分くらいだな」
「田口さん」
俺は窓の外を見ながら口を開いた。
「ちょっと寄ってください」
「寄る?」
「そこのコンビニです」
田口は少し不思議そうな顔をしたが、何も言わずコンビニの駐車場へ車を入れた。
「財布忘れたんで、お金かりてもいいですか?」
俺が手を差し出すと、田口はすぐに財布を取り出した。
「犬のエサを買うなら経費で落ちるから、返さなくてもいいぞ」
そう言って五千円札を一枚渡してくる。
「ありがとうございます」
俺は五千円を受け取り、一人でコンビニへ入った。
店内を歩き、レジへ向かう。
「公共料金の支払いをお願いします」
店員に電気代と水道代の払込票を差し出した。
支払いを終え、レシートを財布代わりの封筒へしまう。
「ありがとうございました」
店員に見送られ、俺は何事もなかったようにコンビニを後にした。
パトカーへ戻ると、田口が助手席を見て尋ねる。
「犬のエサは?」
俺はシートベルトを締めながら答えた。
「買ってません」
「……じゃあ、何を買ってきたんだ?」
「電気代と水道代を払ってきました」
数秒、車内が静まり返る。
田口はゆっくりと俺を見た。
「……俺の五千円で?」
「はい」
「返せ」
「もう払いました」
田口は深いため息をつき、ハンドルに額を軽くぶつけた。
「後で絶対、返してもらうからな」
「善処します」
「返す気ないだろ、お前」
パトカーは再び発進し、犬が待つ現場へと向かった。




