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7

中村が給湯室へ消え、ようやく捜査一課にいつもの空気が戻ってきた。

俺は書き終えた始末書を眺めながら、ふぅと息をつく。


『その他、色々すみませんでした』


便利な言葉だ。

これから先も、お世話になる気がする。


「ところでさ、斎藤くん」


金田がコーヒーを片手に俺のデスクへやって来た。


「なんですか?」


「噂によると、君って元ナンバーワンホストらしいじゃないか」


「そうですけど。それがなにか?」


金田は少し驚いた顔をする。


「否定しないんだ」


「事実ですから」


「何年くらいやってたの?」


「三か月……ですかね」


「三か月でナンバーワン?すごいじゃないか。それなのに、なんで辞めたの?」


俺は少しだけ遠くを見る。

思い出したくもない記憶が頭をよぎった。


「あの店には、マスコットキャラクターがいたんです」


「へぇ~、どんなキャラクター?」


「きのこの形をしたキャラクターです。僕はそのキャラクターが嫌いでした…」


金田は黙って続きを待つ。


「働き始めた頃は、店の隅に小さなぬいぐるみが一つ置いてある程度だったんです」


俺はゆっくりと言葉を選ぶ。


「ですが、日を追うごとに、奴は増殖(ぞうしょく)していきました」


「……増殖?」


「グラスにもいました。シャンパンにもいました。メニューにもいました。壁紙にもいました。名刺にもいました」


金田の笑みが少しずつ引きつっていく。


「そして、店の入口には、奴の等身大のオブジェまで立っていました」


俺は目を閉じる。


「あいつは、いつも笑っていたんです…。

なぜ笑っているのか……。僕には理解できませんでした」


「いや、マスコットキャラだからじゃ……」


金田が小さくツッコむが、俺は聞こえなかったふりをする。


「そんなある日、店のキャラクターデザインを一新するという話を聞きました」


「それなら良かったじゃないか」


「僕もそう思いました」


俺はゆっくりとうなずく。


「これで、ようやく奴とはお別れだと」


少し間を置く。


「改装工事が終わり、期待して店へ向かいました」


「……うん」


「奴は」


俺は静かに息を吸う。


「色違いになっていました」


「色違い?」


「はい」


「黄色だった奴が、ピンクになっていただけでした」


沈黙。


金田は言葉を失う。


「世界が終わった気がしました」


「そこまで?」


「後日、僕は…」


俺は遠い目のまま続ける。


「奴のオブジェを横倒しにして、店を辞めました」


金田は額に手を当て、大きくため息をつく。


「……斎藤くん」


「はい」


「ホストを辞めた理由は分かった」


「はい」


金田が腕を組み、話を続ける。


「それで、ホストを辞めてどうして警察官になろうと思ったの?」


「……」


給湯室から戻ってきた中村が俺達の会話を聞いていたらしく、俺達の肩をたたく。


「喋ってないで仕事しろ」





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