将来に悩む女子高生を救え 5
女子高生が無事に地上へ降りると、警察官に付き添われながら、俺のもとへ駆け寄ってきた。
俺は彼女の前で立ち止まり、ゆっくりと声をかける。
「あなたの父親と母親がどんな人なのかは、僕は知りません」
女子高生は俯いたまま、黙っている。
「ですが、まだ生きている」
俺は彼女の目を見つめる。
「そうでしょう?」
「うん…」
小さな声だった。
俺は静かに続ける。
「生きているなら、まだ説得できます」
「…うん、わかってる……」
そう言って女子高生は小さくうなずく。
そのとき、後方から慌ただしい足音が聞こえてきた。
「加奈子……!」
40代くらいの黒髪の女性が息を切らしながら駆け寄ってくる。
女子高生が顔を上げる。
「ママ……!」
母親は娘の前まで来ると、目に涙を浮かべた。
「あなたに厳しく接して、ごめんなさい」
女子高生の目が揺れる。
「将来のことも、勝手に決めて……あなたの気持ちをちゃんと考えてなかった」
母親の声が震える。
「あなたが本気で芸能の世界に進みたいというのなら、私は応援するわ…」
涙が頬を伝う。
「だからお願い……もうこんなことはやめて…」
「ママ…」
女子高生は唇を震わせた。
俺はしばらく何も言えなかった。
やがて、涙をこぼしながら娘が母親へ近づく。
「ママ……」
そして、小さな声で言った。
「ごめんなさい…」
母親は何も言わず、娘を強く抱きしめた。
俺は二人の姿を少し離れた場所から見つめる。
母親がいない俺にとっては少し胸が痛む光景だった。
女子高生は母親としばらく抱き合ったあと、俺の方へ振り返った。
目元はまだ赤かったが、先ほどまでの張り詰めた表情は消えていた。
「刑事さん……」
「はい」
「迷惑かけて、ごめんなさい」
俺は首を横に振った。
「あなたが無事でなによりです」
女子高生は少し迷ったあと、俺の手元にある台本へ視線を向けた。
「その台本……」
「これですか?」
「もらってもいい?」
俺は手に持っていた台本を見る。
今回のために警察署で急いで作った、即席の物語。
本来なら、役目を終えたら処分するつもりだった。
俺はそれを女子高生へ差し出した。
「どうぞ」
「……ありがとう」
女子高生は両手で受け取った。
その表情には、ほんの少しだけ笑顔が戻っていた。
「大切にします」
彼女の言葉に俺は小さく笑った。
その後、女子高生と母親は警察官に付き添われ、事情聴取のためパトカーへ向かった。
母親は何度も娘の肩を抱きながら、何かを話している。
「斎藤君、お疲れさま」
金田さんがそう言って俺の肩に手をのせた。
「お疲れ様です」
俺は軽く頭を下げる。
俺たちは警察署へ戻るため、公用車へ乗り込む。
金田さんが運転席。
俺は助手席へ座った。
シートベルトを締め、窓の外を見る。
金田さんがエンジンをかける。
「じゃ、帰ろっか」
「はい」
公用車がゆっくりと発進する。
俺は遠ざかっていく学校を眺めながら、少女が持っていった台本のことを考えていた。
あの物語が、いつか彼女自身の人生を演じるための一冊になればいい。
そう俺は思った。




