将来に悩む女子高生を救え 6
公用車は、警察署へ向かって走っていた。
俺は助手席に座り、窓の外を眺めていた。
ふと、隣でハンドルを握る金田さんの胸元に目が留まる。
「……」
シャツの隙間から、ほんのわずかに何かが見えた。
金田さんが俺の視線に気づく。
「なに?なにかついてる?」
「いえ」
俺は少し考えてから尋ねた。
「それ、入れ墨ですよね?」
金田さんは一瞬黙った。
「うん、そうだけど」
そして、前を向いたまま答える。
「これは前にヤクザの組に潜入捜査したときのものだよ」
「…そうだったんですか」
俺はもう一度、金田さんを見る。
「なんで消さないんですか?」
金田さんの表情が少しだけ曇った。
「……理由は色々あるから言えない」
「消す時、痛いからですか?」
「それもある」
短い返事だった。
俺はそれ以上聞かなかった。
車内には再び静かな時間が戻る。
公用車は、夕方の街を走り続けていた。
しばらく沈黙が続いたあと、金田さんがぽつりと口を開く。
「斎藤くんってさ~」
「はい」
「何も考えてないようで、色々考えてるよね」
俺は金田さんの横顔を見る。
少し考えてから答えた。
「金田さんって……」
「ん?」
「色々考えてないようで、実は何も考えてないですよね」
「……」
数秒の沈黙。
そして、金田さんが吹き出した。
「ははは!相変わらずひどいなぁ、君!」
俺も小さく笑う。
「今のは冗談です」
「分かってるよ」
金田さんは笑いながら前を向く。
俺は窓の外へ視線を移した。
「あなたは部下のことをちゃんと考えています」
「……」
「さっき、僕が車の中で寝ていたときも、起こさなかった」
金田さんが少しだけこちらを見る。
「僕のことを思って、寝かせてくれていたんですよね」
「まあ……それくらいはね」
「あなたの、そういうところ」
俺は金田さんを見る。
「すごく好きです」
「ありがとう…」
金田さんが目を細め笑った。
しばらく窓の外を眺めていた俺だったが、次第にまぶたが重くなってくる。
「……眠い」
「寝てていいよ」
金田さんが前を向いたまま言う。
「着いたら起こすから」
「……ありがとうございます」
俺はシートに身体を預け、目を閉じた。
しばらくして、俺は小さくつぶやく。
「着いても、起こさないでください」
「それは無理だよ」
「今日はもう仕事したくないんですよ、俺」
「俺?」
その一言で、車内が静かになった。
俺は目を閉じたまま口をつぐむ。
しまった。
今の言葉は、普段の俺なら使わない。
ゆっくりと目をあけると、
金田さんがちらりとこちらを見ていた。
「……」
そして、ふっと笑った。
「俺でも、別にかまわないよ」
「……」
数秒、沈黙。
「言い間違えました」
俺は窓の方へ顔を向ける。
「忘れてください……」
金田さんは小さく笑った。
「はいはい」
俺は再び目を閉じる。
寝言でなにかマズいことを言っていないか、今になって不安になってきた。
しかし、過ぎてしまったことはもうどうしようもない。
そう俺は思うのだった。




