将来に悩む女子高生を救え 2
公用車は、学校へ向かって静かな道路を走っていた。
俺は助手席で窓の外を眺めていた。
流れていく街並みをぼんやりと目で追っているうちに、次第にまぶたが重くなっていく。
「……」
気づけば、俺はシートに身体を預け、そのまま眠っていた。
学校へ到着すると、校門の前にはすでに規制線が張られていた。
公用車を降りた俺は、まず周囲を見渡した。
制服姿の生徒たちや教師たちは規制線の外へ避難させられている。ざわめきはあるものの、誰も大声では話さない。校舎全体が、異様な緊張感に包まれていた。
校舎の前には、十数名の警察官が集まっている。
全員が同じ方向を見上げていた。
俺も視線を上げる。
屋上に、一人の女子生徒の姿があった。
金髪のロングヘア。
遠目からでも、周囲から浮いて見えるほど目立つ髪色だった。
地上には、万一に備えた安全設備も用意されている。
俺は屋上から目を離し、周囲を確認する。
「……」
教師。
生徒。
警察官。
学校関係者。
しかし、その中に少女の家族らしき人物の姿が見当たらない。
俺は少しだけ眉を寄せた。
もちろん、この時点で家庭環境に問題があると断定することはできない。
だが、少なくとも――。
今、この場に保護者がいない理由については確認する必要がある。
俺は近くにいた教師と思われる30代くらいの男に声をかける。
「すみません。あなたは、柴田加奈子さんの担任の先生ですか?」
「はい、そうですが……」
「加奈子さんのご両親は、まだここに来ていないんですか?」
担任の教師は困ったような表情を浮かべた。
「加奈子の父親は海外にいまして……すぐには戻ってこられないそうです」
「母親は?」
「いまこちらへ向かっているそうです。ただ、到着まで少し時間がかかると……」
「そうですか」
俺は再び屋上を見上げる。
金髪の長い髪を風になびかせながら、柴田加奈子さんが屋上の端に立っていた。
父親は海外。
母親は仕事で、すぐには来られない。
――なるほど。
加奈子さんが、あそこまで追い詰められた理由が少しだけ分かった気がした。
もちろん、これだけで家庭のすべてが分かるわけではない。
しかし。
両親はここにいない。
その事実が、彼女にとっては何よりも大きかったのかもしれない。
金田さんがメガホンを手に取り、屋上へ向かって声をかけた。
「君の話が聞きたい。なにがあったのか、理由を教えてくれないかな?」
少女から返事はない。
校庭に、重たい沈黙が落ちる。
警察官たちも息を潜めている。
俺は屋上から目を離さなかった。
やがて、少女が震える声で話し始めた。
「パパもママも……私がどうなろうと気にしない!」
その声には、怒りと悲しみが入り混じっていた。
「自分の都合ばっかり……!私の夢も諦めろって……!」
少女は言葉を詰まらせる。
「私のことなんて、何も分かってない!」
金田さんは急かさなかった。
ただ、メガホンを持ったまま少女の言葉を待っている。
少女はしばらく黙ったあと、声を絞り出した。
「……私は夢を、諦めたくない!」
金田さんが静かに尋ねる。
「夢って、どんな夢?」
少し間があった。
「……女優になりたいの!」
その言葉を聞いた瞬間、俺は少女の表情を見つめた。
怒っているようにも見える。
泣いているようにも見える。
でも、その奥には確かに、自分の夢を捨てたくないという強い気持ちがあった。
金田さんは柔らかい声で答える。
「素敵な夢だね」
少女は何も言わない。
俺は金田さんの横顔を見る。
今は説得する必要なんてない。
まずは、彼女が大切にしているものを知ること。
そして、その夢を否定せずに話を聞くこと。
俺はそう考えながら、静かに少女を見上げていた。




