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将来に悩む女子高生を救え 1

 警察署、捜査一課。

 午後の三時を少し過ぎた頃だった。


 窓から差し込む午後の日差しが、デスクの上に積み重ねられた書類を淡く照らしている。キーボードを叩く音、電話の呼び出し音、刑事たちが交わす短い会話。いつもと変わらない、慌ただしい午後の捜査一課だった。


 俺は自分のデスクで報告書を書いていた。

 そこへ、中村の声が響いた。


「斎藤、金田」


 名前を呼ばれ、俺は顔を上げる。

 少し離れた場所では、金田が椅子に深く座り、何やら書類を眺めていた。


「二人とも、こっちへ来い」


 普段とは違う中村の声。

 俺はペンを置き、立ち上がった。

 金田も書類を机に置く。


「何かあったのかな」


「さあ」


 俺たちは並んで中村のデスクへ向かった。

 中村は腕を組んでいた。

 その表情から、いつもの軽い冗談を言えるような雰囲気ではないことが伝わってくる。


「たったいま、緊急の通報が入った」


 俺は黙って中村を見る。


「学校からだ。女子生徒が屋上で危険な状態になっている」


 一瞬、捜査一課の空気が変わった。

 近くにいた刑事たちも、こちらへ視線を向ける。

 金田の顔からも、いつもの笑みが消えた。


「現在、教師と学校関係者が対応している。警察も現場に入っているが、本人が誰とも話そうとしないらしい」


 中村は一度言葉を止めた。


「斎藤」


「はい」


「お前に説得を頼みたい」


 俺は小さく頷いた。


「分かりました」


 続いて、中村が金田を見る。


「金田、お前も同行しろ」


「了解」


 金田が短く答える。

 俺は中村の表情を見つめた。


「その女子生徒について、何か分かっていることは?」


「名前は柴田加奈子、現在高校3年生の17歳、担任によると進路で悩んでいたみたいだが

 それ以外、詳しいことはまだわかっていない」


 中村はそう答えた。


「だからこそ、慎重に説得しろ」


「……はい」


「何があったのかも、なぜそこにいるのかも、本人から聞くまで分からない」


 その言葉に、俺は静かに頷いた。

 交渉なら、これまで何度もやってきた。

 相手の言葉を聞き、相手が何を求めているのかを探る。

 だが、今回はいつもの事件とは違う。

 こちらの要求を通すための交渉ではない。


 ただ、目の前にいる一人の少女に、こちらの声を届ける。

 それだけだ。

 金田が隣で小さく息を吐いた。


「斎藤くん」


「はい」


「今回は、より慎重にいこう」


 俺は金田を見る。


「分かっています」


「まずは彼女の話を聞く、それだけでいい」


 俺は再び頷いた。


「……はい」


 中村が腕時計を見る。


「準備ができたらすぐ向かえ」


「はい」


 俺は自分のデスクへ戻る。

 そのままデスクの椅子に座り、パソコンの電源を入れる。

 キーボードを叩きながら、これから必要な下準備を始めた。


「……」


 画面に表示された文章を確認し、いくつかの項目を追加する。

 その様子を、隣にいた金田が見つめる。


「時間がないのに、なにしてるの?」


「下準備です」


 俺は画面を確認し、最後の操作を終える。

 完成したデータをUSBメモリへ保存し、それを金田へ手渡した。


「中にあるテキストデータを全て印刷してください」


「了解、部数は?」


 俺は少し考える。


「……五部で」


「分かった」


 金田はUSBメモリを受け取り、捜査一課を出ていった。

 俺はその間、デスクで仮眠をとる。

 しばらくして、金田が数十枚の書類を抱えて戻ってきた。


「コピー終わったよ」


「ありがとうございます」


 俺は受け取った書類に一枚ずつ目を通し、問題がないことを確認する。

 そして、それを五部に分ける。

 それぞれをきれいに揃え、ホッチキスで留めていった。

 金田はその様子をじっと見ている。

 やがて、堪えきれなくなったように口を開いた。


「……内容、見たけどさ」


 俺は顔を上げる。


「君は一体、なにをするつもりなの?」


 俺は完成した書類を持ち、席を立つ。


「行きましょう」


「……」


 金田は何か言いたそうな顔をしていた。

 だが、俺は気にしない。

 金田が小さく息を吐き、椅子にかけていたコートを羽織る。

 そのまま俺たちは捜査一課を出た。



 警察署の駐車場へ向かい、公用車に乗り込んだ。

 俺は助手席へ座り、シートベルトを締める。

 金田が運転席に乗り込む。

 エンジンがかかる。


「斎藤くん。何をするつもりなのか、教えてくれ」


「現場に着けば分かります」


「それ、分からないまま行く僕の気持ちも考えてよ」


 俺は窓の外へ視線を向けた。


「早く行ってください、時間がありません」


 公用車が静かに走り出す。

 向かう先は、女子生徒が待つ学校。

 俺は膝の上に置いた書類へ目を落とした。

 準備は整った。

 あとは、本人の声を聞くだけだ。



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