人気No1キャバ嬢を救え 5
立てこもり犯の男を乗せたパトカーが去り、
店の入り口で立っていると、田口が駆け寄ってきた。
「怪我はないか?」
俺は隠し持っていたヘリウムガスの缶を取り出し、もう一度吸い込む。
「はい」
再び高い声になる。
「この声、男だとばれませんでしたよ」
田口は額に手を当てた。
「そうか……」
そう言って深いため息をつく。
そこへ、人質だった金髪のキャバクラ嬢が歩み寄ってきた。
「助けていただき、本当にありがとうございました」
深々と頭を下げる。
俺も軽く頭を下げ返した。
「どういたしまして」
「……あの」
女性が首をかしげる。
「その声、どうしたんですか?」
俺は無言で田口を見る。
田口は少し考えてから答えた。
「犯人がまぬけで良かったな」
俺は静かにうなずく。
「地声でも、声を作って話すべきでした」
「今度はそれでやってみろ」
田口は苦笑する。
事件は無事に解決した。
事件を終えた俺たちは、覆面パトカーで警察署へと向かった。
運転席には田口。
助手席には俺。
俺はスーパーで買ったスルメを袋から取り出し、黙々とかじる。
「……イカ臭い!」
田口が顔をしかめ、運転席の窓を開けた。
「車内で食うな」
「美味しいですよ」
「そういう問題じゃない」
そんなやり取りをしていると、赤信号で車が止まる。
そのときだった。
「修司!」
歩道から女性の声が聞こえた。
田口が振り向く。
茶髪のセミロング。
スーツ姿の女性が、小走りで助手席側へ駆け寄ってくる。
俺は煙草をくわえたまま、窓を開けなかった。
すると田口が身を乗り出し、助手席側の窓を開ける。
「渚」
田口が少し照れくさそうに笑う。
「仕事は?」
「今日は早く終わったの」
渚も笑顔を返した。
「今から帰るところ」
そして、田口の服装を見て首をかしげる。
「それより、その格好……なに?」
「ああ」
田口は頭をかく。
「さっき、キャバクラで立てこもり事件があってな。潜入捜査で変装してたんだ」
「へぇ~」
渚は納得したようにうなずく。
その視線が、ゆっくりと俺へ向く。
俺は何も言わず、煙草を一口吸った。
渚は少し目を丸くする。
「……あなたは?」
俺をじっと見つめながら尋ねる。
「すごく綺麗な人だけど……」
言葉を区切り、田口へ視線を戻す。
「修司の仕事仲間?」
さらに一歩身を乗り出す。
「それとも……」
疑うような目で田口を見つめた。
「誤解するな」
田口は苦笑いを浮かべた。
「こいつは男だ。な?斎藤」
俺は無言でスルメをかじる。
「……」
「……おい」
「……」
「話せ、バカ」
田口が俺の頭を軽く叩いた。
「いたっ!」
思わず声が漏れる。
低い男の声だった。
渚は目を丸くする。
「えっ……」
俺は咳払いを一つして会釈した。
「申し遅れました。捜査一課の斎藤です」
渚は驚いたまま固まっていた。
「ご、ごめんなさい……」
恥ずかしそうに頭を下げる。
「私、てっきり女の人かと……」
俺は真顔で答える。
「女です」
「えっ?」
渚が再び固まる。
「いい加減にしろ」
田口がすかさずツッコむ。
その瞬間、信号が青に変わった。
「渚、帰ってから話す」
「あ、うん」
渚が歩道へ下がる。
田口はアクセルを踏み込み、覆面パトカーをゆっくり発進させた。
バックミラーを見ると、渚はまだ呆然とした表情でこちらを見送っていた。
「お前、ほんといい加減にしろ」
ハンドルを握りながら田口がため息をつく。
俺は窓の外を見つめ、煙草に火をつけた。
「田口さん」
「なんだ?」
「浮気したことあります?」
「あるわけないだろ」
即答だった。
「そうですか……」
俺は煙を吐きながら窓の外を見る。
すると田口が聞き返してきた。
「お前はあるのか?」
「あるように見えます?」
田口はちらりと俺の横顔を見る。
「顔がいいからな」
「……」
「その分、女が寄ってくるだろ」
俺は少し考えてから口を開いた。
「田口さんは、あれですよね」
「なんだ?」
「ゴリラにモテる顔してますよね」
「どんな顔だよ」
「そんな顔です」
「……」
車内に沈黙が流れる。
田口は前を向いたまま何も言わない。
俺は小さく続けた。
「落ち込まないでください。ゴリラにも可愛い子はいます」
「黙れ」
田口のツッコミに、俺は小さく笑った。
覆面パトカーは夕暮れの街並みに溶け込むように走り去っていった。




