息子と母親を救え 2
公園に着くと、俺は車を降りた。
「おい、どこに行くんだ」
田口の声を背中で聞き流し、園内へ歩いていく。
滑り台の隣にある小さな砂場で、一人の少女がしゃがみ込んでいた。少女の視線の先には、砂場の縁を一列になって歩くアリの群れがいる。
俺は少女の隣に腰を下ろした。
「アリが好きなんですか?」
少女は嬉しそうにうなずく。
「うん。アリさん可愛いし、いつもエサを運んでえらいなって見てるの」
「そうですか」
俺は足元を歩いていたアリを指先で数匹つまみ上げる。
そして、そのまま口の中へ放り込んだ。
小さく噛む。
鼻に抜ける独特の酸味。
やはり、この味だ。
少女は目を丸くして俺を見つめていた。
数秒後、その表情が恐怖に変わる。
「……こわいよー!ママ―!」
泣き声を上げると、少女は立ち上がり、公園の奥へ走り去っていった。
「……お前は何をやってるんだ?」
いつの間にか後ろに来ていた田口が、呆然と俺を見下ろしていた。
俺は立ち上がりながら笑う。
「知ってました?」
「……あ?」
「アリって、すっぱいんですよ」
「……」
田口は何も言わない。
「それをアリが好きなあの子にも教えてあげようと思って」
しばらく沈黙が流れた。
やがて田口は額を押さえ、大きくため息をつく。
「……わざわざそれを言う為に寄ったのか…」
「はい」
「…現場に行くぞ」
田口はそれだけ言い残し、さっさとパトカーへ戻っていく。
俺はその背中を見つめながら考えた。
どうすれば、田口を泣かせることができるのか…。




