人気No1キャバ嬢を救え 1
警察署内にいた、ある日の午後。
俺がデスクで報告書を書いていると、中村に呼ばれた。
「斎藤、ちょっと来い」
「はい」
中村のデスクへ向かうと、中村は険しい表情で腕を組んでいた。
「緊急で頼めるか?」
「もちろんです」
「あるキャバクラで悪質な客が立てこもっている」
中村は資料を机に置く。
「店で働く女性を人質にしていてな。
客の要求は、『人質の女性より魅力的な女性を連れてこい』だそうだ」
俺は資料に目を通す。
写真に写る人質と思われる女性は派手な見た目をしている、
どうやら店の人気No1キャバ嬢らしい。
「交渉役は俺ですか?」
「ああ。どうだ、いけるか?」
「はい」
俺はその場で振り返った。
「田口さん!」
離れた場所にいた田口を手招きする。
「なんだ?」
「一緒に来てください!」
田口を中村のデスクまで連れていく。
「田口さんと現場へ向かいます」
中村は少し不思議そうな顔をしたが、すぐにうなずいた。
「わかった。任せる」
俺たちは捜査一課の部屋を後にした。
廊下を歩きながら、俺は事件の概要を田口へ説明する。
「__というわけです」
「なるほど。それで?」
俺は真剣な表情で言った。
「田口さん、女装してください」
「断る」
返事が早かった。
「即答ですか」
「当たり前だ」
田口は呆れたようにため息をつく。
「女性警察官に協力を頼んでくる」
俺は首を横に振った。
「駄目です」
「なんでだ?」
「か弱い女性を危険にさらすわけにはいきません」
田口は腕を組み、少し考え込む。
「……確かに」
一度は納得しかける。
だが、次の瞬間、はっと我に返った。
「いや、だからって俺が女装する理由にはならないだろ!」
廊下に田口のツッコミが響き渡った。
「だいたい女装したところで声で男だってばれるだろ」
田口が腕を組む。
俺は少し考えてから答えた。
「ヘリウムガスを使えば、女性の声に近づけられます」
「お前、それ本気で言ってるのか」
田口は呆れたように額を押さえた。
「それに俺はガタイがいい。どう見ても男だ」
自分の胸を軽く叩く。
「お前の方が体の線が細い。適任なのはお前だ」
俺は少し考えたあと、小さくうなずいた。
「……分かりました」
そして真顔で続ける。
「では、田口さんは女性を斡旋するクズ男役でお願いします」
「……」
数秒、沈黙が流れる。
田口は深いため息をついた。
「……分かった、引き受ける」
「ありがとうございます」
俺は周囲を見回した。
「メイクができる人、誰かいませんかね?」
田口は何かを思い出したように指を鳴らす。
「……あいつなら」
俺たちは捜査二課へ向かった。
捜査二課の一角で、田口が一人の警察官へ声をかける。
「花園、ちょっと頼みがある」
振り返ったのは、ピンク色の短髪が目を引く男性警察官だった。
「なぁに?」
男性でありながら、仕草も口調も女性らしい。
「今から立てこもり事件の現場にいく。キャバクラ店への潜入捜査だから、
こいつを女性に見えるようメイクしてほしい」
花園は俺の顔をじっと見つめる。
「素材はいいわね…。任せて」
俺は椅子へ座らされる。
ファンデーション。
アイメイク。
つけまつげ。
リップ。
花園の手は迷いなく動き続けた。
十分後。
「できたわ」
手鏡を渡される。
そこに映っていたのは、女優のように綺麗な女性だった。
茶髪の前髪を横へ流し、柔らかな印象になった顔立ち。
周囲の警察官たちが仕事の手を止める。
「……え?」
「あれ、もしかして捜査一課の斎藤か?」
「美人すぎるだろ」
捜査二課がざわつく。
花園は満足そうに腕を組んだ。
「完璧だわ」
田口は思わず感心する。
「…これは、喋らなきゃ男だってばれないな」
俺は鏡を置き、花園に小さく頭を下げた。
「ありがとうございます」
「……」
花園がじっと俺の顔を見る。
「なにか?」
「いいえ、なんでもないわ。いってらっしゃい」
俺と田口はそのまま捜査二課を後にし、覆面パトカーへ乗り込む。
目的地は、立てこもり事件が起きているキャバクラだ。




