大型犬の飼い主を救え 4
俺は上着のポケットからスマートフォンを取り出した。
「こんなときのためです」
画面には『犬語翻訳』と書かれたアプリが表示されている。
「それ、日本語を犬の言葉にするアプリか?」
田口が思わず身を乗り出した。
俺はマイクボタンを押す。
「ワン、ワンワン、ワンワンワン」
と真顔で犬語らしきものを話した。
ピコン。
アプリが反応した。
数秒後、スマートフォンのスピーカーから機械音声が流れる。
『私たちは敵じゃない。飼い主を離して、落ち着くんだ』
「これだ!」
俺は犬へ向かってスマートフォンを掲げた。
「これだ!じゃない!なんで犬語が話せるんだよ!」
田口が呆れたように言う。
「昔、犬を飼っていたので」
そう言って俺は再びマイクボタンを押した。
「ワンワン、ワンワンワン、ワン!」
機械音声が流れる。
『私たちは敵じゃない。安心して』
シベリアンハスキーがぴくりと耳を動かした。
そしてゆっくりと飼い主の腕を離す。
「離した!」
周囲の警察官が声を上げる。
しかし次の瞬間。
シベリアンハスキーは一直線に俺へ駆け寄ってきた。
「斎藤!」
田口が叫ぶ。
ガブッ。
「痛っ」
俺の右腕に犬が噛みつく。
「だめじゃねーか!」
田口のツッコミが飛ぶ。
だが俺は慌てなかった。
犬の頭を優しく撫で、そのまま抱きしめる。
「よしよし」
シベリアンハスキーは尻尾を振り始めた。
「ワン、ワンワン」
ピコン。
アプリが反応する。
スピーカーから機械音声が流れた。
『遊びたかっただけです。すみませんでした』
現場が静まり返る。
「……謝った」
警察官の一人がぽつりとつぶやく。
犬は俺の腕を離し、鼻先をすり寄せてくる。
俺は笑いながら頭を撫でた。
「もう大丈夫ですよ」
「斎藤!」
田口さんが駆け寄る。
「大丈夫か?」
「平気です」
右腕には歯形が残っていたが、大した傷ではない。
シベリアンハスキーは満足そうに俺の足元へ座り、気持ちよさそうに尻尾を振っていた。




