49話 逃げ場などない
擬態した悪神は焦っていた。いきなり少女が現れたかと思えば、視界が暗闇に包まれ、ズルズルと体が引きずられている。
いつ転送者がきた?
か弱い少女の姿をスカーヴァティー(または安楽国)では目にしていない。眷属餓鬼に子供はいるとはいえ、あの相貌は知らなかった。
不自然な笑み。
(安楽国から逃げるのにはあと一歩なのに)
悪神を縛り付けたあの忌々しい牢獄から逃げる手段は人間を食らいつくし、地球へ転送されるだけ。そうして違う次元なりどこかへ潜めばいい。
擬態した者が考えるのはそれが大多数を占めていた。
闇が絡みつき、牙を剥く。
「グギギ……なぜだ!! なぜ邪魔をする!」
同じ悪神だろう、と語りかけようとした瞬間、鼻先にピストルが突きつけられた。
「それが仕事だからだ」
「お前、ワザト!」
「へー、名前を知ってるなんて。驚いたな」
彼はあくどい顔で笑う。例外尽くしだ。ワザトはあちら側でみたことがある。
常に無表情で感情の起伏がないように思えた。軽口を叩くのも、これが初めてなのではないか。
「オカゲ、よろしく」
暗闇の水面下から獣が飛び出してきてさらに食らいつかれ、擬態した者の意識は途絶えた。
オカゲは仕事を終えて、やけに晴れた空に顔をしかめた。
悪神どもに逃げ場など必要あるのだろうか。
あの小麦色の世界こそが自分たちの居場所なのではないか。
ワザトの横で口を閉ざし、歩き出した。




