47話 味変
「この前、異界駅に行ったんだって? いいなぁ」
スイがナイフで遊びながらも問うてきた。
「異界駅? あの、田舎の駅がか?」
「そうだよお。日本ではちょっとした都市伝説になっていてね。行ける人は少ないんだって」
安寧人がやらかして座標を間違えなければあの駅へは転送されなかったのだが……。
「感染者がいない日本はあんな感じだったんだな……。なんか、懐かしくて寂しい気持ちになった」
夏祭りはそこまで盛大でなく、屋台が一つあるだけ。皆で祭囃子と獅子舞、そうして神事が行われていた。
オカゲに言われるまま神社へお参りし、帰りはりんご飴を食べた。とても甘くて美味しかった。
村の人らはこれは普通だと笑っていた。
「そっか。ワザトは破損部分が大きいんだっけ。私はね、夏祭りに行った記憶はあるんだ。誰と、とか、いつとかは無いけどさ。あるんだよ」
「そうかあ。羨ましい」
「夏祭りか、また行きたいなー」
遠い場所へ視線を向けると、彼女は笑う。何を思い出したのだろうか。
「看守にりんご飴を作ってもらおう」
「はあ?? 看守に?」
「そしたら夏祭りになるだろ」
ケラケラとスイは笑い出した。「りんご飴だけが夏祭りじゃないよっ」
看守に訳を話すと、目新しいものには興味を持つ安寧人たちはりんご飴について調べだしたらしい。この国、いや、世界では食べ物の外見が味気ない。
キューブ型だったり錠剤だったり、ゼリーだったり。
おしゃべり好きな看守よれば随分むかしに食べ物はなくなったらしいのだ。ならば今、彼らが口にしているのは何なのだろう。
そんな難しいことは横においておき、看守が持ってきたのはやはりキューブ型の餌だった。
「これはりんご飴じゃない」
「りんご飴の味を再現した、餌だ。ほかの眷属餓鬼たちには好評だった」
「ええーっ、君たちセンス悪すぎない?? 見た目だよ見た目!」
スイもさすがに仰天している。
「この星には果物自体絶滅している。甘味料でしか再現できないのだ。あとは問題児専用の暗示薬入りだ」
「ええ……っ、毒リンゴじゃん。もはや」
「いつも入っているが? さあ、発案者はお前らだ。食え」
仕方なく二人は餌をつまんで口に入れてみたが、わずかにリンゴと甘い味がした。確かに常日ごろの餌よりはうまい。
「おいしいかも、しれない」
「良かった。ワザトが餌に肯定的な意見を言うのは珍しいな」
「甘いから」
「甘けりゃなんでもいいわけ〜〜?」
りんご飴 意外と食べたことないんですよね。




