46話 祭囃子
態と蔭はスカーヴァティー(または安楽国)の失態により、見知らぬ座標に飛ばされた。
キツネ耳の人外――安寧人はよくやらかすため、もはや何も思わないが。
ワザトは寂れた駅のホームにあるベンチから蛾が灯りに集って羽ばたいているのを眺めていた。梅雨の終わりはまだ湿っぽい。
オカゲが梅雨の時期だね、とこぼしていた。雨の音はしないが確かに空気がジメジメして過ごしにくかった。
彼は日本語には疎い、ただここがよく知る地球の世界ではないのは分かった。異星人の使う言語とも異なる文字がデカデカと駅標に書かれていたからだ。
「地球にもこんな世界があるんだなー」
「どこにでもあるよ。意外と」
オカゲは田舎の無人駅の、少なすぎる時刻表を指で追っていた。
「日本ではね、あの世って言われてるんだよ。ワザト」
「あの世、か。ちがう世界が日本にも認識されていたとは驚きだ」
「……。昔からね」
どこからか祭囃子がして、二人は集落の方を見た。線路をまたいだ向こう側に小さな民家の塊がある。
わずかながらにも温かみのある明かりがともっていた。
「なんだか懐かしい感じがする」
ワザトは不思議と落ち着いて、悲しいような失ってしまって、たどり着けないものに触れた気持ちになる。
「日本人には懐かしい感じするかも。夏祭りっていうんだよ、あれ」
「夏祭り?」
「うん。日本の神さまをお祀りして、夏になると皆でお神輿を担いだりしてどんちゃん騒ぎするんだ。屋台もあるよ」
「じゃあ、今から行こうじゃないか!」
すると少女はケラケラ笑った。
「屋台があるのはもっと都会じゃないと」
「おめさんたち、人じゃないね? ちょうどいい、祭囃子を見てかないかい?」
ホームにいたおばあちゃんが話しかけてきた。
「そうだね。ワザトに祭囃子を見せたい」
「そちらさんは祭囃子、見たことないんか?」
「ああ、縁がなくて」
「かわいそうに。水子か。踏切を渡ると村につくから見てきなさい。楽しいよ」
おばあちゃんは飴をワザトに握らせると微笑んだ。
「ほら、ワザト! お参りにいくよ!」




