45話 恵む
「この前、擬態した輩と戦ったんだって? たまーにあるんだよねー」
「まあ、野暮だから安寧人にはなあなあに話をしたけど」
スイはふーん、と牢屋の隅で暇を持て余している。限られた空間には毛布しかないし、後は看守の世間話である。
「まー、仲の良さってのは大切だよねえ。お互い尊重し合えるって」
「……。俺はオカゲがいるから仕事してるだけさ」
「えっ。……そっかあ、何かごめんね」
「いや、でも今の生活に不満はないよ。餌はまずいけど、暇でもないし」
眷属餓鬼が暮らしやすいよう適温が保たれ、代謝もないために不潔な環境ではない。たまに掃除の時間はあれど――地球で、感染者が監禁されていた場所よりもだいぶ優遇されている。
「それに今回の看守は話好きだからな」
「いなくなっちゃいそうだよ、すぐ」
「安寧人にも性格があるだろ」
二人はわずかに笑うと、消灯の時間になり廊下の無機質な灯りが薄ぼんやりとしたものとなった。
「寝る時間になったみたいだ」
「えー、寝ちゃうのー」
「そうプログラムされているから。で、スイは寝ないのか?」
「私はねえ、掟破りだからね。あんなちゃっちいプログラムは簡単に破れるんだよ」
「じゃあ、横になるだけなればいい。俺の毛布使っていいから」
「――ねえ、ワザトはそうやってオカゲちゃんに甘やかされてるの」
「は?」
クスクスと彼女はイタズラに茶化した。
「良いなあ、私も甘やかしてくれる悪神に出会えれば良かった」
「スイも大概オカゲに甘やかされてるぜ」
内側でオカゲがやれやれ、と呆れているのがわかる。だが本当だと彼は思う。
オカゲは周囲に無頓着ではあるが、スイに対しては一定の関心や配慮があるのを理解している。
「こら、ワタシ以外のひとを誑かさないの!」
でも本当に今の生活に不足も不満もない。スイと話せるのも、たまに苦戦を強いられる『仕事』も。別に嫌じゃないのだ。
(オカゲがいるからかもしれないな)
オカゲがいなかったら、今頃、やけになっていただろう。
きっとオカゲに会えた運命は恵まれている。なんて、彼は内心笑って睡魔へまどろんだ。
エブリスタ版ではこちらが最終話になりました。
これからがんばりたい。




