38話 葬
ワザトを気に入る天女――悼は良く地球の花々を好む、造花の植物室で座りたそがれている女性――というが、天女は女性しかいない。
というより性別という概念がない、そういう国だ。
眷属餓鬼も人間としての姿はしているが中身は異なる。異国の者に弄られた感染者はもはや同一の存在ではないのだ。
「ワザト、イタム様がお呼びだ」
「あ〜〜? もしかしてまたヒステリー?? オンナって大変だよねえ」
「スイ! 言葉を慎め!」
「はあ〜〜い」
スイはクスクス嗤うが、こちらは内心冷や汗がでそうだった。
ワザトは己を気に入っている訳でないと勘づいている。生前、食べてしまった天女を諦めきれなくてこうやって呼び出す。彼女はワザトの中に天女がいると思い込んでいる。
だから、対話をしたがる。
「△△△! 会いに来てくれたのね!」
美しい家具に囲まれた部屋へ、キツネ耳の人外に放り込まれる。キツイ香の匂いに吐き気がするがそれよりも、イタムにつよい力で掴まれた。
「よかったわ! 居なくなったかと……△△△、お願い。触りたいの」
「ヒッ」
恐怖にこわばる。有無を言わせずにベッドに押し倒され、腹を裂かれた。「ここにいるんでしょう! △△△! 返事をして」
口から黒い液体が出て、もはや意識が朦朧とする。腸をかき回されているのか、ジタバタと勝手に身体が動いた。
苦痛を紛らわすために、人は現実逃避する――幻覚の世界で、ワザトはオカゲと延々と広がる不思議な草原にいた。
小麦畑のような一面黄金の視界で、爽やかな風に吹かれオカゲが言う。
「ここはね。ワタシたちの、本来の世界なの」
「安楽国の?」
「ちがうよ、ワタシたち……言語化できないけどさ、綺麗でしょ」
「うん」
手を引かれて、二人で夕陽の中を往く。「ずっとここに居たい」
「ダメだってば。ワザトは、ここの住人じゃないから」
「なんで――」
我に返るとあの部屋にいて、己の口が勝手に動いた。
「あはははっ! △△△はワタシが全部食べちゃったよ!」
探し続けていた腕を黒い液体が牙を剥き、ガブリともいでいく。悲鳴ともつかぬ号泣に、意識が途切れた。
「起きたか。ワザト」
看守がご苦労、と珍しく労ってくる。
「……腹は」
「我々が修繕しておいた。本当に天女は訳のわからない種族だ」
それはお前らもではないか、と言いかけたが無言をつきとおし、檻に入れられる。
「あの草原は……夢だったんだろうか」
イタムの漢字を忘れてしまいました。
2026/07/01 思い出しました。




