36話 踏み潰す
ヨシによれば巨大な空港を避難所にしたが、感染爆発が起きた痕跡があるらしい。空港――ワザトは初めて目にするが、彼女は物知りだから疑わずにマシンガンを軍服めいた服を着た者たちへ発砲していた。
彼らはこちらを異界からの使者と呼ぶ、あちらもワザトと似たマシンガンを手に狙ってきた。
ヨシといえば魔法使いのように指を鳴らせば、あらゆる毒ガスを召喚できる。
それには想定外だったのか……軍勢は少し数を減らした。
「あの武器ほしいな」
「どれ?」
オカゲが不思議そうに問う。「あのデカいやつ」
「戦車ぁ?! ワザトが操縦するの?!」
「気合いで」
「あっはっは! じゃあ飲み込んであげるよ!」
大笑いをすると彼女はワザトの姿を歪ませ、巨大な悪神の力を晒した。機械も銃弾もものともせず、戦車を丸呑みした。
「異獣だ! 異獣が出現したぞ!」
部隊がどよめくが、オカゲは口内から高火力の火炎放射を吹き出した。毒ガスに引火するなり、辺りは大爆発を引き起こす。
「わたくしの流儀に反していますわ。隣、行きましょう」
ヨシはクルリと身を翻すと輪郭が曖昧になる。
出現したのはワニに酷似した頭、ダックスフンドの身体、象の脚とトゲまみれの謎の長い尾を持つ悪神だった。
牙の合間から毒を吐きながら全てを踏み潰す。
オカゲよりも数百倍でかいのだから、当然だ。
「撤退ーっ! 撤退だ!!」
あまりの事態に人間たちは早々と基地がある方向へ、逃げていった。
「チカちゃん。いつ見てもデカいなあ」
「怪獣みたいだ……」
「ヨシに聞かれたらお尻ペンペンされるよ」
「うげえ」
「はい。パンケーキ。生クリームマシマシよ」
「おお! どこから召喚したんだ?!」
「冷凍庫にありましたから。調理してみたのでしてよ。わたくしのはオムライス」
空港のレストランでヨシがテーブルに美味しそうなパンケーキを置いた。
「初めて貴方の喜ぶ感情を見またしたわ」
「た、食べていいのか?!」
「どうぞ」
ゆっくりとフォークで生クリームをすくうと、口に入れた。甘くてほっぺたがおちそうだ。
「う、うまい」
「あ、こら、犬食いなんてはしたないわ! もう!」
感染者がウヨウヨいるレストランの片隅で穏やかな時間が流れ、ミスマッチな光景が広がっていた。
ヨシさんは料理上手。




