34話 オカゲなくして
牢屋の中でスイが珍しく読書をしていた。地球の言語で書かれたもので、血染みで台無しになっている。
彼女はよくペナルティを食らうし、いつも小馬鹿にしたようにヘラヘラしているが読書をするイメージはなかった。
「看守からもらったのか? 賄賂?」
「まさか。安楽国も文化の保存はしているみたいでさ。これは研究の一環かなー」
「読書感想文を書くんだな?」
「ええっ、小学生?! 違うよ。餓鬼に読書させたらどうなるか、ってさあ。私が選ばれたわけ」
頷いて、横から文字の羅列をみたがサッパリ読む気にならない。
しかし文章の中で愛だの、世界だの――この間、ファミレスで話したような文字が散らばっていた。あの時はすごく楽しかった。
立場を忘れてオカゲと話せた。
「この話はね。地球が滅ぶなかで、少年少女が葛藤する話なんだよ。ねえ、ワザト。もし地球が滅ぶ中で私たちが知り合いだったらどうする?」
想像……できなかった。スイはぼんやりと日常にいそうだが、自分自身の姿がまったく浮かばない。
「挨拶して自分の生活を過ごして滅ぶのを待つ、かな」
「味気ないなあ」
「しょうがないだろ。自分が居ないんだから。そこに、平和な時代に俺は浮かばなかったし。ああなる前の自分は存在してないんだ」
「……そうかー」
ふと、もしも餓鬼になる前の自分がいて、オカゲとも会わずして過ごしていたら――どうなっていただろう。
(そんなの、俺じゃない。オカゲがいなければおれじゃないんだ)
内側でオカゲがクスリと笑う。
(笑うなよ。本気なんだぞ)




