30話 造花の花園
ワザトを気に入る天女――イタムは良く地球の花々を好み、造花の植物室で座りたそがれていた。
ワザトは己を気に入っている訳でないと勘づいている。生前、食べてしまった天女を諦めきれなくてこうやって呼び出すのだろう。
イタムは人にすれば四十代くらいか、整った顔をしていた。いや、天女は揃いもそろって模造品のような美しいかんばせを有している。
彼女は模造の花に囲まれ、人工太陽の光の下、花を眺める。まさに似合っていた。
「貴方は本物の太陽をみた事があるのよね」
「まあ、暑かったり弱かったり。季節ごとに違う」
「花々は?」
「あー……たくさんありすぎて、というか仕事であまり見る暇がないな」
彼女は嬉しそうに頷き、ホログラムの紅茶を表示した。天女たち、いや、この世界の住人はホログラムを食べる。
どういう原理かは不明だが。
「△△△は紅茶が好きだったの。甘い紅茶が」
名前の聞き取れない人物――地球へ逃げた天女の名前だ。スカーヴァティー(安楽国)の言語は難解で、餓鬼には聞き取れない箇所がある。
「まさか地球の紅茶も飲みたがるなんて」
「……そう」
(嘘。ワタシがいたから、操って地球に来ただけ)
内側でオカゲが笑う。定かではないが、その天女には生前のオカゲが寄生していたらしい。だから。
それを知るものはいない。
「貴方は紅茶、好き?」
「まあ、好きだな。冷たいほうが夏は飲みやすい」
「フフ。あの娘もそう言いそうね」
イタムはクスクスと楽しげだ。(ばかばかしいと思わない?? 一欠片もない故人を、他人に投影するなんてさぁ)
(人間らしい、と思う。人間みたいだ。……危なっかしい)
(確かにそうかも。人もそんなふうに未練たらたらな行動をとるねえ)
(オカゲは?)
(ワタシ。まだ分からないな。ねえ、ワザトは教えてくれるの?)
オカゲは笑うのをやめて、静かに問うた。
「あの娘は夢に出てくる? なんて言ってる?」
「……餓鬼は夢を見ないんだ。申し訳ないね」
「そうよね」
ホログラムのカップから偽の液体をすすりながら、彼女は遠い場所を見つめている。
(あの娘はワタシが全部食べちゃったよ)
迂闊に口を滑らせないよう、ワザトは口をきつくつぐんだ。
スカーヴァティー(または安楽国)は太陽があった星なんでしょうか。自分で書いておいて今不思議に思えてきました。




