29話 オカゲの嫉妬とヤサシイ家族
ワザトはインターホンを鳴らすと、笑顔で夫婦に出迎えられた。あまりない経験にフリーズしたが彼らは
「お待ちしておりました」
と、言った。
リビングへ通され、夫婦は変に落ちついた様子でこちらを見ている。
「噂には聞いております」
「まあ、過激派やそれ以外から聞いた噂ですがね。本当だったんですね」
二人はお見せします、と2階へ案内しようとする。
「どういう意図だ? 訳がわからないんだが」
「娘が2階におりますから」
「……娘?」
「はい。感染してもう、世にいうゾンビになってしまいました」
母が悲しげに笑った。親族が感染してそんな笑みを浮かべる人物は少数で、戸惑うしかない。
「俺は感染者を処理する仕事はしない」
「はい、知っています。殺してほしいのは俺たちなんです」
「え……」
既に発症している様子でもない。彼らはただの人間である。
「私たちがもしも感染して、ゾンビになったら娘を忘れてしまうでしょう? そうして街をさまようなんて嫌なんです」
「妻の言っているとおり、我々は人のままで最期を迎えたい。お願いします」
頭を下げられ、ワザトは息を飲む。自分は自らの家族など知らないし、人間の汚い側面をたくさん目にしてきたが……こんな風に考えを編み出す者たちもいるのか。
「分かりました」
「ねえ、あれさぁ! どうったって綺麗事だよねえ〜〜? はーあ、嫌になっちゃう!」
オカゲが乾いた嗤いをはいて、冷蔵庫のプリンを食べている。
「綺麗事? あれは何だよ? 何遍考えても理解できねえ。家族ってああいうものなのか?」
「家族? ワザトは家族が欲しいの?」
「いや、ただ分からなくなっただけ。人間は突飛な行動をしすぎるし……」
残り物を食べ尽くしていたワザトはふと自分にも親がいたのかと疑問に思う。
「だーめ! ワザトはワタシだけ考えてよっ」
「はあ? 妬いてるのか?」
「ふーんだ。やいてません!」




